ムーア臨床解剖学 第3版
『ムーア臨床解剖学』が改訂された。原著の『Essential Clinical Anatomy』は、Amazon.comで解剖学の教科書のうちで最もよく売れているものの一つ。
『Essential Clinical Anatomy』は、『Clinically Oriented Anatomy』の簡略版だ。これらいずれも、2016年に日本語版が改訂され、原著と同じ版になった(日本語版の改訂がいくつか飛ばされたので、版の番号はずれているが)。
これら原著の改訂のおおきな変化が、図の改善だ。もともと『Grant’s Atlas of Anatomy』から図の多くが引用されていたが、歴史のあるアトラスだけに図が古ぼけてみえるのは否めなかった。本書の改訂で図のほとんどがCGでトレースされたり描き直され美しくなった。レイアウトも見直された。
本書をみてすぐわかるのは、そのコンパクトなことだ。判型が小さく厚さも薄い。重さは『臨床のための解剖学』のちょうど半分だ(『グレイ解剖学』は後者とほぼ同じサイズ、重さ)。解剖の授業では、教科書の他にも、実習書、アトラスなど3〜4冊は持ち運ぶ必要がある。小さな教科書で済むなら、歓迎だ。
『臨床のための解剖学』から、重要性の低い項目を省き、図のいくつかを省略し、レイアウトを詰めて、このサイズになっている。図の数で比較すると、約4割の削減だ。分量が減った分、全体の見通しがよくなり、要点に気づきやすく理解しやすくなった面はある。一方で、記述に余裕がなくて飲み込みにくい部分もある。ただし、レビュー書とはちがって、キツキツに要約され詰め込まれているわけではない。『グレイ解剖学』と比べれば余白は狭いが、息苦しいほどではない。
全体的な構成や内容は『臨床のための解剖学』と同様だ。最初の章で系統解剖学が説明され、続く章で各部の局所解剖が述べられる。形態学がストイックに述べられるのではなく、臨床との関わりが重視されている。体表解剖や画像解剖にも重点が置かれる。発生学や発生異常の話題もあり、内容に奥行きを増している。
多くの大学の授業で教科書に求められる内容は、これでカバーできるのではないだろうか。担当の教員にこれでよい成績をとれそうかたずねたり、過去の授業プリントや試験問題と比べて(教員の言うことと実際の出題とは同じではないかもしれない)、検討しよう。
残念なのは、まえがきや本文中で言及されているにもかかわらず、この日本語版にthePoint上のコンテンツへのアクセスコードが付属していないことだ。学生のアカウントではUSMLE形式の練習問題、教員用のアカウントでは図のファイルをダウンロードできるはずだった。冊子に原著と日本語版の電子版が付属している『グレイ解剖学』とは対照的だ。
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