寄生虫を守りたい / 図説人体寄生虫学 第10版

寄生虫を守りたい

寄生虫を守りたい

佐々木瑞希
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著者は、寄生虫の独立系研究者でXのアカウントに3万のフォロワーがいる。独立系、というのは、今は大学などの研究室に所属しているのではなく、研究所の設立を目指して研究を続けているということ。趣味というか、資金集めというか、グッズショップもやっている。

出版元のnoteがある。また、本書の出版に当たってのインタビューがある:

 

 

装幀がかわいらしく、いろいろな寄生虫といっしょにシートを拡げてピクニックしている絵柄になっている。靴をちゃんと脱いでいる。お弁当がないけれども、寄生虫だからいらないのかな?

 

 

寄生虫の研究者になった理由が興味深い。著者も寄生虫は気持ち悪く感じていて、みるとゾクッとするらしい。しかしそれが惹かれるという。

全体が8つに章立てされているけれども、何かの分類ごとというよりも、フリ→熱意のまま思いつくままいろいろな話→まとめっぽいもの、という感じ。多分だけれども、ボツネタもたくさんあっただろう。

 

もくじ

  • 序 章 はかない生きざま
  • 第一章 なかなか過酷な寄生生活 多様すぎるライフサイクル
  • 第二章 見たことのない寄生虫を追う 寄生虫研究とはどのようなものか
  • 第三章 誰にも気づかれずに生きる 陸上で生活する寄生虫
  • 第四章 運任せの一生 河川や湖沼を利用する寄生虫
  • 第五章 圧倒される個体数と多様性 広い海を回遊する寄生虫
  • 第六章 絶滅から救いたい 自然環境と寄生虫の関係
  • 終 章 減らないように、増えないように

 

はじめは、寄生虫というのはどういうものか、という話。そしてどうしてそれを研究することになったか。寄生虫の研究方法が興味深い。

 

虫が嫌いだった

 

DNAで種を同定する

 

続いて、いろいろな寄生虫について、たくさん、様々に、その多様性のまま、記載されている。生物の分類順ではなく、生活環の主な場所がどこかによって、大まかに分類されている。寄生虫そのものの研究者なので、人体に感染するかどうかは関係ない。

気味のわるい寄生虫として人気のロイコクロリディウムや、刺身の生食で痛い眼にあるアニサキスも登場する。ロイコクロリディウムは、グッズショップのオリジナル商品にもなっている。ロイコクロリディウムがカタツムリの脳を支配してしまう、というのは、確認されてはいないらしい。どこにも都市伝説はあるものだ。

寄生されてもよいかと思う寄生虫と、絶対寄生されたくない寄生虫というのが、興味深い。評者は、だいたいは寄生されたくないが。

 

ロイコクロリディウム

 

アニサキスの生活環

 

寄生されてもよい寄生虫、絶対寄生されたくない寄生虫

 

最後は、「守りたい」の部分の話。何の役に立つか→いろいろ言ってはみるものの内心、役に立たなくてもいいと思っている。生物多様性→ごにょごにょ… などとなっているけれども、フォロワーが3万で、グッズも人気なわけで、好きな人はみんなたまらないんだ。「生態系の一員としてそのまま維持されることを望むだけだ」

 

「確かに役に立ちませんね」

 

本書を読むのはそんなに気持ち悪くない。写真が白黒で、なかにはどこに寄生虫が写っているのか判然としないのもあるからだ。リアリティーのある画像をお求めなら、次を読もう。

 

図説人体寄生虫学

図説人体寄生虫学

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『図説人体寄生虫学』は、初版から半世紀にもなろうという、人体寄生虫学の定番のテキスト。概ね5年ごとの改訂が続いている。この第10版から原著者を離れ、日本寄生虫学会によって維持されることになった。

本書は、人体の病因となる寄生虫や動物の集大成。総論から各論まで学べる。各論では、寄生虫が種ごとに論じられていて、論理的で読みやすい。

日本では寄生虫による疾患は稀になった。それでも、外国に行って感染したり、外国から国内に持ち込まれたりはあるので、見たら思い当たるという程度の素養は必要だ。また、現在どうして寄生虫病を少なくできているか、バックグランドを知らないと、先達の努力を危うくすることもある。いまでも注意すべき寄生虫もある。

 

目次

  • 総論
  • 各論
    • 第1部 人体寄生原虫学
      赤痢アメーバ・消化管内寄生の非病原性アメーバおよびヒトブラストシスチス・病原性自由生活アメーバ・トリパノソーマ・リーシュマニア・ランブル鞭毛虫・腟トリコモナスおよび消化管内寄生鞭毛虫類・クリプトスポリジウム・戦争シストイソスポーラおよびサイクロスポーラ・トキソプラズマ・肉胞子虫・マラリア・バベシアおよび大腸バランチジウム・ナナホシクドア・ニューモシスチス・後天性免疫不全症候群(AIDS)
    • 第2部 人体寄生蠕虫学
      • I.線形動物
        回虫・ブタ回虫,イヌ回虫,ネコ回虫およびアライグマ回虫・幼虫移行症・アニサキス・蟯虫・鉤虫・東洋毛様線虫・広東住血線虫・広東住血線虫・糞線虫・有棘顎口虫および剛棘顎口虫・ドロレス顎口虫および日本顎口虫・東洋眼虫および旋尾線虫・バンクロフト糸状虫・マレー糸状虫および常在糸状虫などMansonella属線虫・イヌ糸状虫・回旋糸状虫,ロア糸状虫およびメジナ虫・鞭虫,肝毛細虫およびフィリピン毛細虫・旋毛虫
      • Ⅱ.扁形動物
        • A.吸虫類
          肝吸虫・横川吸虫・有害異形吸虫,槍形吸虫,肥大吸虫および膵蛭・ウェステルマン肺吸虫・宮崎肺吸虫・大平肺吸虫およびその他の肺吸虫・棘口吸虫・肝蛭・肝蛭・日本住血吸虫・日本住血吸虫・マンソン住血吸虫およびビルハルツ住血吸虫・鳥類住血吸虫のセルカリアによる皮膚炎・咽頭吸虫
        • B.条虫類(付.鉤頭虫類および鉄線虫類)
          広節裂頭条虫および日本海裂頭条虫・クジラ複殖門条虫およびマンソン裂頭条虫・孤虫症(幼裂頭条虫症・無鉤条虫 付.アジア条虫・有鉤条虫・単包条虫および多包条虫・単包条虫および多包条虫・小形条虫,縮小条虫および多頭条虫・瓜実条虫,有線条虫,サル条虫およびニベリン条虫・鉤頭虫類および鉄線虫類
    • 第3部 衛生動物学
      マダニ・ツツガムシ・ヒゼンダニおよびイエダニ・ニキビダニ,屋内塵ダニおよびダニアレルギー・蚊・ブユ,アブおよびドクガ・ハエ・ノミ・アタマジラミおよびコロモジラミ・ケジラミおよびトコジラミ・ハチ・シバンムシアリガタバチ,ゴキブリ,ムカデおよびヒアリ・毒蛇・ネズミ・ネズミと腎症候性出血熱
    • 第4部 総まとめ事項および検査法

 

ワンテーマが見開きで完結している。左ページに文章、右ページが図版だ。いくつか重要なのをみていこう。

アメーバ赤痢は、日本では性感染症として報告が続いている。2001年には400を越えたという。

 

赤痢アメーバ

 

トキソプラズマは、垂直感染を起こす病原体として、キャリアーが何かを含めて知らないといけない。

 

トキソプラズマ。TORCHコンプレックスは、知っておきたい

 

アニサキス症は、魚介類の生食でおこる。一旦凍結すれば防げる。

 

アニサキス

 

マダニは、群馬県の山中にふつうにいる。ペットに付いていることもある。いろいろな疾患を媒介する。

 

マダニ

 

ニキビダニはときに皮膚炎の原因になる。

 

ニキビダニ

 

最後に、人体寄生虫学のまとめがある。いろいろな寄生虫感染症が横断的に表になっていて、知識のレビューになる。授業の試験対策になるし、むしろここから試験を出題したらいい。寄生虫に関わるかどうかは関係なく、医家には必携のテキストだ。