人類は感染症とともに生きていく〜学校では教えてくれないパンデミックとワクチンの現代史
羊土社の新しいレーベル「PEAK Books」からの、昨年12月の新刊。担当編集者の記事がnoteにある。
『感染制御の基本がわかる微生物学・免疫学』につづいて、京楽堂の消しゴムハンコの作品がカバーや紙面を飾っている。ピンクの地色とかわいげなハンコでバランスがとられているけれども、帯にはおどろおどろしさが漏れあふれ、カバーを外せば赤一面のレッドアラートだ。
原著『Outbreaks and Epidemics』とはタイトルが異なるし、コロナウイルスと飛沫が飛び交っていた装幀も違うものになって、編集者の本好きが伝わるようだ。
原著の『Outbreaks and Epidemics』は2020年4月に刊行された。多分最後に執筆されたと思われる「序章」には、「ダイアモンド・プリンセス」のクラスターが言及されている。「中国も世界も、SARSから学んでいた」という。その通りだったところも、その期待ほどでもなかったところもあったのを、今は知っている。だとしても、人と感染症との歴史に学ぶところは多いはずだ。
天然痘やペストから最近のSARSやMERSまでのよく知られた感染症のほか、日本では例がないが世界的な問題になっているいろいろな感染症まで、多くの感染症との戦いが本書には記載されている。
麻疹の流行は、2007〜2008年に日本でもあったから知っていたけど、メジナ虫(ヒト体内で1メートルに育って足からでてくる)? ニパウイルス? チクングニア熱(からだがねじ曲がる)?
著者は公衆衛生の研究者であり、ジャーナリストでもある。多数の専門家や感染症対策の責任者などに取材したようだ。書振りは冷静で、理想を語ることも、非難や幻滅もなく、リアリスティックだ。多少、同じ話が繰り返されたり、話が前後したりはする。章ごとにはまとまっているので、読むのにくたびれたら他の好きなところを読めばよい。
PEAK Booksの他の書籍と同様、英語の原著を翻訳専門の会社のプロの翻訳者が日本語化している。誤訳がなく、日本語らしい日本語で、読みやすい。タイポもほとんどない。広告に「緊急翻訳」とあるとおり、原著から日本語版まで8か月くらいしかたっていない。医学書の翻訳に比較するとスループットがはやい。
感染様式に関して、著者の用法では「空気感染」といっしょくたになっていたけれども(*)、日本では「飛沫感染」「飛沫核感染」というようにより細分し、三密の概念も加えられている。三密が世界的に認められるのは原著の出版後なのでしかたない。もし本書に日本の専門家の監修が付いていたら、注が加わったかもしれない(その分刊行が遅れたかもしれない)。
* 用語として区別されていないだけで、感染様式の説明自体は区別して記載されている。
本書に図表はない。文章だけの墨一色だ。ビジュアルに概観したくなったら、たとえば下がオススメ。医学図書館にある。ちなみに、この本でも空気感染と飛沫感染がいっしょくただ。
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