感染制御の基本が分かる微生物学・免疫学

医学部の授業では、微生物学は解剖学と並んで嫌われがちな科目だ。どちらも暗記科目と思われている。免疫学もややこしさで敬遠されがちだ。その証拠に、これらは「好きになるシリーズ」にもある。ここに出てくる科目名を見ただけで目眩がしそうだ。(もう一つの嫌われ者の雄、神経解剖学が見当たらないが、このシリーズでも好きになれないのだろうか。)

本学の現カリキュラムでは、細菌学、ウイルス学、免疫学が独立した科目になっていて3年生が学ぶ。シラバスのとおりに教科書を揃えると3冊になる。いずれも良書とされるけれども大部で、合わせると1,700ページを超える。

こういうときには、あらかじめ簡単な薄い教科書を使って、科目全体を見渡しておくと効率的だ。といっても、箇条書きで要約がならぶタイプの本を選んでしまうと、情報が高密度すぎて消化不良になりがち。ストーリーがあって、読んで楽しいのを使いたい。

 

 

感染制御の基本がわかる微生物学・免疫学』は、看護系・医療検査系の学校向けのテキストだ。まず表紙がいい。明るく優しいデザインで、「微生物」から連想される恐ろしさがなく、むしろ可愛げだ。作者は消しゴムはんこ作家「京楽堂」さんで、大学の分子遺伝学の研究室でシアノバクテリアの研究をされたことがあり、「微生物の形態学や運動マシナリーなども調べ」て制作されたという。著書が、Amazon Unlimitedで読める。

 

 

『感染制御の基本がわかる微生物学・免疫学』では、微生物学・感染症学・免疫学が一体になっている。学問としては別々だし、大学内でも違う研究室・部署になっているけれども、ホストとパラサイトの界面をそれぞれ違う方向からてみているだけだ。一つの学問を語ればいつの間にか他の学問の話になっていたりする。本の企画中に新型コロナウイルス感染症のパンデミックがあり、感染制御学も本書のスペクトルに加わったという。この機会に感染制御のバックグラウンドの知識を見直しておこうというひとにも役立つだろう。

 

もくじ

 

本書を読むひとが学びやすいよう、いろいろ便利な工夫がこらされている。

重要なところにはあらかじめアンダーラインが引かれている。看護師国家試験に頻出のポイントからこれが選ばれている。マーカーを使うのが苦手なひとには安心だ。院内感染症で重要になる病原体には 重要!  アイコンがある。注釈は ★側注 としてすぐ横にあり、ググったときにちゃんとした情報を選べるよう ⚲検索 アイコンがある。詳しい説明が他のベージにあるときには ●参照 で示される。

章末にはチェック問題がある。重要なのに見落とされがち、誤解されがちなポイントが突かれている。

 

便利なマークやアイコン

 

章末のチェック問題

 

本書は大きく3つに分かれている。「基礎編」「各論編」「臨床編」だ。それぞれにキーカラーがあって、紙面を色づけている。

「基礎編」は、微生物学・免疫学の歴史から始まる。歴史といっても年表を暗記させようというのではなく、今ある学問やものの見方の背景を知るためのものだ。

 

パスツールのフラスコ

 

死因の推移から社会のなかの感染症の位置づけをみる

 

イラストが簡明な線と優しい色調で描かれている。検鏡して病原体を同定するようなミッションには向かないが、それは他にテキストがある。

 

微生物のイラスト

 

新型コロナウイルス感染症のパンデミック後のテキストらしく、テレビ番組でもよく聴かれるような、感染経路、飛沫感染、飛沫核、パンデミック、罹患率といった言葉が押さえられている。クラススイッチも最近は耳にするようになった。感染症関連法規の話題も討論番組ででてくるし、ワクチンのニュースが頻繁に伝えられる。

医療系の大学で学んでいると、親戚から専門的な質問をされることが少なくないだろうけれども、そういうときにも役立つ。

レパトアやT細胞の成熟のストーリーないけど、国家試験にでないのかな? 『はたらく細胞』第3巻にはでてくるけど。

 

感染経路

 

感染症とパンデミック

 

クラススイッチ

 

感染症関連法規

 

ワクチンのいろいろ

 

消毒法、消毒薬、手洗い、マスク、PPEの着脱など、コロナ対策で大切なこともまとめられている。

 

消毒薬のいろいろとそのスペクトル

 

PPEの着脱

 

治療薬について、スペクトル、耐性菌、適切な投与法なども言及されて、実際的だ。レボフロを漫然と使うのがよくない理由も分かる。新型コロナウイルス感染症をきっかけに、抗ウイルス薬の作用機序もテレビ番組で見かけるようになった。

 

抗菌薬のスペクトル

 

抗ウイルス薬の作用機序

 

微生物学では「各論」が大きなハードルになっていて、膨大な数の病原体を暗記していく学び方になりがちだ。「細菌の表をとりあえず覚える」ことが課されることもあるだろう。本書の「各論編」にも多くの微生物が記載されているけれども、それぞれに特徴的なエピソードが語られ、イラストや写真もあって、印象に残りやすい。そもそもひとはそのように学んでいくものなのだ。

 

ウエルシュ菌の芽胞による食中毒:食材をよく混ぜるのは、焦がさないためばかりではない

 

緑膿菌の緑色

 

エピソードには新しい話題も含まれる。

 

ロタウイルスは、この10月から定期予防接種へ

 

「感染症編」では、感染症が臓器別に概観される。いまは感染症が新型コロナウイルスだけのようになってしまっているけれども、実際の臨床はそればかりではない。全体を俯瞰しておくことが大切だ。また、院内感染を理解しておくことが重要になる。

 

感染書の俯瞰図

 

多剤耐性と院内感染

 

付録にある、感染症を時期と地域でまとめた資料が便利だ。

 

感染症の流行時期

 

地域に特異的な感染症

 

COIに関する告示本稿の筆者は、本学の微生物学・ウイルス学・免疫学の授業には関与していない。本書がそれらの授業成績に具体的に影響するかどうかの示唆をするものではない。