魅惑の生体物質をめぐる光と影 ホルモン全史

魅惑の生体物質をめぐる光と影 ホルモン全史

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Randy Hutter Epstein
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FIFAワールドカップ 2022年カタール大会の優勝はアルゼンチンだった。アルゼンチン・チームの代表でMVPを受賞したリオネル・アンドレス・メッシ・クッシッティーニ(1987~)は、しばしば「世界最高峰のサッカー選手」と称される。

 

Lionel Messi playing for Argentina at the 2022 FIFA World Cup (Tasnim News Agency; Wikimedia 2022/12/2)

 

幼少期からサッカーの非凡な才能を発揮していたメッシはしかし、10歳のときに「成長ホルモン分泌不全性低身長症」と診断され、成長ホルモン投与を続けなければ身体の発達を望めなかった。才能が認められ13歳で加入したFCバルセロナが治療費全額を負担し、13歳時の身長143センチから18歳には身長170センチまで成長した。

年代を確認しよう。メッシが成長ホルモン投与を始めたのは、1997年かそれ以降になる。

『ホルモン全史』第10章「強くなり続ける痛み」の話題がまさに、ヒト由来成長ホルモンによるクロイツフェルト・ヤコブ病

クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)(指定難病23)には医原性のがある。ヒト由来の材料や物質、手術器具などにコンタミしたプリオンによるものだ。症例の多いものには以下がある:

  • 硬膜、角膜
  • ヒト下垂体由来のホルモン製剤(成長ホルモン、ゴナドトロピン)
  • 脳内電極

米国では1963年から1985年まで、ヒト由来成長ホルモンを使って補充療法が行われていた。これが止められたきっかけになったのが、ここで取り上げられた、1984年の20歳の医原性CJDの症例だ。

現在は、遺伝子工学によって合成されたヒト成長ホルモンが治療に用いられているので、CJD感染の心配はなくなった。

この切り替えの年代は国によって前後している。米国では1986年にはヒト由来製剤は止められた。フランスでは3年ほど遅れたために、医原性CJDの発症率が高い。イタリアでは、医原性CJDの大半が髄膜移植によるものらしい。メッシは安全な治療を受けられたはずだ。

 

ヒト由来成長ホルモン投与によるCJD感染

 

『ホルモン全史』の筆者、エプスタイン氏は、医師、作家、ジャーナリスト。ペンシルバニア大学で歴史学と社会学、コロンビア大学でジャーナリズム、イエール大学で医学、コロンビア大学で公衆衛生学を学んだ。

話しは、19世紀、まだホルモンが知られていなかったころ、フリークショーで働く超肥満女性の症例に始まる。続くエピソードも、意外で、緊迫感のあるストーリーだ。最終章の現代の症例が冒頭のエピソードのリフレインになっている。

現代ならこんな話にもなる。やはり、光と影だ: