薬学生のための微生物学と感染症の薬物治療学
薬学部のコアカリに準拠した微生物学・感染症学・薬物治療学のテキスト。
同じ著者による前著『感染制御の基本がわかる微生物学・免疫学』は、新型コロナウイルス感染症のために世界中で緊急事態宣言が出された2020年に出版された。主に看護学生のためのテキストだったけれども、微生物学や免疫学、感染制御を手っ取り早くレビューするのにも役立った。世の中の不安や不満を和らげるような、白地に消しゴムはんこの優しいデザインが印象的だった。
今回の本は、前著の好評を踏まえて計画され、「薬学部の授業で学生が使う」ことを目的とした教科書である。
表紙は前著と同じ消しゴムはんこだけれども、新作の人体を中心に、化学式やら錠剤やら新型コロナウイルスやらランブル鞭毛虫やらが加わっている。黒地に虹色で、一見メタリックな干渉色のようにもみえる。ハイコントラストでクールなデザインだ。
口絵に、いろいろな微生物の電子・光学顕微鏡写真がある。多くは他書からの引用だが、筆者自身のもある。(ヤクルトさんありがとう。「1000」の生産がんばって)
授業で使うテキストらしく、「使い方」から始まる。薬学領域での重要度に応じて、★☆☆〜★★★が所々に付されている。★のあるところを説明できるようにしておけばテストはOKというわけだ(未保証)。羊土社のサイトには、練習問題の正解がある。
新型コロナウイルス感染症後のテキストらしく、それに対応する内容がおさえられている。感染症法、mRNAワクチン、アナフィラキシーなどに関する記述をみることができる。
本書の本幹である、抗菌薬のところをみてみよう。
コアカリに準拠したテキストなので、まず「学習目標」が提示される。これをクリアすれば、本書のカバーする範囲では薬学のCBTも国試もOKのはず。
★☆☆〜★★★がどうなっているだろう。普通のペニシリンGは★★☆、アンピシリンは★☆☆、バンコマイシンには★★★が付いていた。
処方される頻度とはあまり関係ないみたいだ。バンコマイシンはMRSAの第一選択だからということだろうか。スルタミシリンがでたときはうまくできてるなと思ったけど、★☆☆だった。
治療薬側からだけでなく、疾患の診療からもみてみよう。「今日の診療プレミアムWEB」で肺炎球菌感染症とMRSA感染症を確認するとこんな感じ:
抗菌薬の副作用もまとめられている。
絶食と抗菌薬に起因するビタミンK欠乏による出血は、ちょっとググると報告がいくつかみつかる。ビタミンB12欠乏は、抗菌薬が原因にはならないかも(肝臓に数年分のストックがあり、吸収ポイントが発酵の起こる大腸より前の回腸遠位部なので)。
- 坂本昇太郎, 高雄由美子, 上嶋江利, 柳本富士雄 & 前川信博. 絶食・抗生物質投与によるビタミンK欠乏に起因すると思われる凝固障害で硬膜外穿刺部より多量の出血を認めた1例. 日本ペインクリニック学会誌 19, 519–522 (2012).
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Deguchi, I., Hayashi, T. & Takao, M. 虚血性腸炎の治療中に高度の凝固異常を呈した直接経口抗凝固薬内服中の高齢患者. 日本老年医学会雑誌 56, 74–78 (2019).
各章に章末問題がある。選択式と記述式。正解はウエブで。
コアカリを一定のボリューム内でコンプしようとしているテキストだけに、教科書然とした素っ気なさが、ちょっとツラいこともある。
そんなところにときどきでてくる「コラム」が息抜きだ。微生物、感染症、薬学をテーマにしたマンガもとりあげられている。新薬は舐めて味をチェックする『アンサングシンデレラ』、血小板ちゃんのTIKTOKの『はたらく細胞』、かもせ〜の『もやしもん』。いずれも本学図書館に所蔵されている。
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