聴診器を買う

OSCEでは聴診器(ステト)を使う。聴診器はそうそう壊れるものではない。よいものなら研修やその先まで使える。

OSCEで使うには、チェストピースが2面になっているタイプが必要。聴診器の体に当てる部分をチェストピースという。一方の面がダイアフラム(プラスチックの薄い板)で、高音がよく聞こえる。他方はベル(小さなカップ状の形)で、低音がよく聞こえる。

聴診器のチェストピース(リットマン カーディオロジーIV)

OSCEではダイアフラムとベルの使い分けをチェックされる。本当に音が聞こえているか問い詰められることはないかもしれないけど、理論的に聞こえるはずのない所作をしてると(位置が違うとか、ベルを体表に押しつけているとか)、使えていないのがバレる。

OSCEの評価項目から抜粋:

□ 聴診器などの患者さんに触れる診察器具をアルコール綿などで消毒する。□ 目的に応じて、膜型、ベル型を使い分ける。□ ベル型でIII音、IV音を確認する。※ベル型では胸壁をかろうじて覆う程度に軽く圧着させ、膜型では胸壁にしっかり押しつけて聴診する。

高いのがいいか、安いので済むか

聴診器をあまり使わない先生(診療科によってそういうこともある)なら、高いのでなくてもいいというかもしれない。いそがしい現場や健診のような着衣の裾から聴診するような状況では、高級なのは大きくて取り回しに困る。救命救急では、じっくり心音を聴くより、モニター装着、ライン確保、エコーが先になる。聴診器はジャマにならないサイズのほうがいい。

循環器用の高価で大きなモデルを使ったほうが、デキるような見栄えにはなる。一般診療向けのは看護師さんたちも使っているので、差別化したいかもしれない。一方で、実力が伴わないとスノッブな感じになってしまう。

循環器専門の先生は、性能面から高価で立派なのを勧める。左心不全の時には、正常音に加えてIII音やIV音のような低周波音が生じることがある。特にIV音はヒトの可聴域の下限に近い低音なので、聴取が難しい。一般に、チェストピースが重く、チューブが太い高級モデルのほうが低音がより聞き取りやすいとされる。

つまり、臨床実習や初期研修のうちにIII音・IV音に聞き慣れておくには、一定以上の価格(売価1万円強)のを買ったほうがよい。そしてたぶん練習。米国循環器医 James V. Warrenのことば(*):

Despite limitations by complexities of the sounds and an inadequate acoustic system, rewarding information can be gained from interest and discernment by that most valuable part of the total system — that between the earpieces of the stethoscope.
Warren JV. 1957. Gallop Rhythm. Circulation 15:321–323.

(口語訳)そりゃ心音は複雑だし、ステトだっていまいちなこともあるよ。でも、がんばって聞き取ろうっていう気持ちが報われるにはさ、一番重要なのを忘れちゃいけない。君のステトのイヤーピースとイヤーピースの間にあるモノさ(ドヤァ – by ジェームズ

指導医があたかも自分の発案のように発言することがある。

聴診器のメーカーと主な製品

3Mリットマン、ケンツメディコ、ウエルチ・アレンが、代表的な聴診器メーカーで、性能に定評ある。本学の医学生のシェアもこの順のようだ。

参考記事:医師の仕事道具図鑑|聴診器~人気ブランド&商品はこれだ!【エピロギ】

3Mリットマン

3Mリットマンは、循環器医リットマンが興した聴診器メーカーで、いまは3M傘下。世界シェア8割超という。いろいろなモデルがある。交換部品が売られているので、長く使える。

リットマンのダイアフラムは「サスペンデッド・ダイアフラム」(米国では Tunable Diaphragm という)といって、体表に当てる強さを変えるだけで高音・低音を聞き分けられる(一部のモデルを除く)。ただし、この所作はOSCEの評価者に伝わらないので、ダイアフラムとベルを切り替えて聞き分けるようにする。

どのモデルが自分に合ってるか迷ったら、どんな色のバリエーションがあるか、カタログでみるとよい。それぞれのモデルがどういう職位や職種むきに企画されたのか、だいたいわかる(例えば、専門医向けのは渋い色調のが多い)。

チェストピースや耳管の金属部を着色した「エディション」モデルがあり、通常のモデルより少し高価。ブラックエディションは塗装なので、使い込むとステンレスの地がでることがある。こういう「エイジング」を楽しむ向きに。スモーク、レインボー、ゴールドなど、その他の色は表面処理なので、比較的耐久性がある。

使い込まれたマスターカーディオロジー ブラックエディション。凸部に地金がみえる

クラシックⅢ

一般診療向け。最も売れている聴診器。かわいい色のバリエーションが多いので、医師だけでなく看護師さんたちにも人気。大小2面のサスペンデッド・ダイアフラムがあって、小児から大人にまで対応できる。このダイアフラムはリムが一体化された新型。小さい方のダイアフラムを外せばベルとして使える。OSCEのときはこうしておけばよい。チューブの空洞はシングルで、ポケットへの収まりがいい。全長69cm。内科一般や救急での使い勝手のよさはカーディオロジーIVに勝る。レビュー

クラッシックⅢ チョコレート・カッパー・エディション

カーディオロジーIV

循環器医向け。カーディオロジーIIIに続く新モデル。循環器専門医になっても使える。チェストピースがクラシックIIIより大きく、チューブは内部に左右2本の空洞があるダブルルーメン。そのためにクラシックIIIより少し低音に量感がある(掛け替えながら注意して聞き比べて初めて分かるくらい)。ダイアフラムは共通。全長は標準69cmと、ショートレングス56cmの2種類。短い方が低音に有利とされるが、識別できるほどの差はないという人もいる。短いと診察が大変になるから、ふつうは標準がよい。それでもクラシックIIIより取り回しでは劣る。スモーク、ミラー、シャンパンなどが似合う。

カーディオロジーIV スモークエディション

その他

以下のモデルはOSCEには不適。

リットマンの最上位機(電子聴診器を除く)。1987年発売で、モデル寿命が長い。サスペンデッド・ダイアフラム1面。ダイアフラムはリム別体の旧式だが、同社の製品中最大径で低音に有利とされる。小児や肋間の痩せた人には向かない。

Bluetooth付きの電子聴診器。低音・高音・全域の3通りの音響フィルターがあり、スイッチで切り替えて聴診する。センサー面が少しだけ触れていれば聞こえるので、小児や肋間の痩せた人にも対応。聴診音を本体に録音し、PC/Macに転送できる。録音される音自体は低音〜高音の全域なので、あとでフィルターを切り替えて聴ける。タッチノイズが多いので持ち方に注意。本学附属病院のスキルラボセンターが教育用に所有している。

ケンツメディコ

ケンツメディコは、日本の聴診器・血圧計のメーカー。会社が埼玉県本庄市、工場は群馬県上野村にあって、本学から近い。「サスペンデッド・ダイアフラム」の採用されたモデルがある。補修部品も販売されている。同社の「ブラックモデル」の金属表面はテフロン加工。

フレアーフォネット

一般向け。サスペンデッド・ダイアフラムを含む4種類のダイアフラム。

ドクターフォネット ネオ

循環器向け。大小2種類、それぞれサスペンデッド・ダイアフラムと通常のダイアフラムの2種類、計4種類のダイアフラムを交換できる。小さい方のダイアフラムを外してベルにすれば、OSCEに対応できる。

その他

新しい構造のエクステンションダイアフラム採用。重低音に強いとされる。体表にそっと当てると高音から低音まで広く聞こえ、強く当てると低音が強調される。OSCEには使えない。

チェストピースからバイノーラルまで左右独立になっていて、聴診音がステレオで聞こえる。

かつてHewlett-Packardから販売されていたRappaport-Spragueを現代の素材と技術でコピー。ベル、ダイアフラム、チューブを大小/長短イロイロ交換できる。権威的な外観だが、大柄でジャマだったり、チューブが捻れたり抜けやすかったり、ベルの当て方の至適域が狭かったり、使いこなしに手間取るかも知れない。短時間の比較で評者にはクラシックIIIより音質・音量で優れてはいないように思われた。Hewlett-Packardオリジナルの未使用品だとeBayで数十万円のプレミアがつくことがある。米国Amazonにはコピー品が多数あり、Omronのは十数ドルながら高評価。

ウエルチ・アレン

ウエルチ・アレンは、診察器具のメーカー。もとは検眼鏡のメーカーとして創業され、聴診器メーカーを合併して現在の形に。「コルゲートダイヤフラム」という、同心円状の凹凸のあるダイアフラムが特徴。体表の凹凸によく追随して接触を保つらしい。

ウエルチ・アレンの製品は、現場では聴診器より検眼鏡やペンライトのほうがよく見かけるかもしれない。検眼鏡・耳鏡のセットを臨床実習に学生に買わせる大学もある。

プロフェッショナル

一般診療用。普通のダイアフラムとシングルチューブ。チェストピースはステンレス製。

エリート

循環器用。コルゲートダイヤフラムとダブルルーメン。チェストピースは音響特性に優れているとされる真鍮製。

ハーベー

循環器用。コルゲートダイヤフラム、通常のダイアフラム、ベルの3面のチェストピース。チェストピースは真鍮にクロームプレート。真鍮は音響特性に優れるという(メーカーによる)。「ハーベー」の名は、同社の聴診器の開発に長く携わったW. Proctor Harveyから。2面のタイプもある。

その他のメーカー

米国の医療器具メーカーのMDFインスツルメンツが国内販売を始めた。リットマンなどより安価。ユーザー登録をすると、交換部品が生涯無料保証になる。日本にはまだ入っていないが、本国にはカモ柄プリントのチューブやローズゴールド色のチェストピースなどカラフルなバージョンがある。打診器に定評ある。

白衣メーカーのクラシコがデザイン性の高い聴診器を販売した。ケンツメディコと共同で開発したらしいが、性能には否定的な評価が散見される(検索)。通常のダイアフラムでシングルルーメンのチューブという仕様は、他社ならコメディカル向けになる。チェストピースがシングルのもあって、心音を聴かせる気がないのがわかる。

電子聴診器のメーカーのThinklabsのThinklabs Oneは従来の概念を覆すデザイン。イヤホンをつないで聴く。

パイオニアが2017年1月に電子聴診器U10シリーズを発売した

聴診器の比較記事

Amazonのレビューが参考になる。ただし★の数だけでなく、その内容まで吟味のこと。たとえば、チューブが割れやすい、スプリングが折れやすいとの理由で★を下げているレビューをみかけることがあるが、本人の使い方がイケないだけなので無視してよい。

米国のAmazonにはレビューの投稿が多いので参考になる。数百〜数千のレビューのついた機種もある。ただしケンツメディコはない。

The Ultimate Acoustic Stethoscope Review:2008年、12台の比較。Master Cardiology III(現在はIV)がトップ、次点がOmronのラパポートタイプ(国内販売無し)

Best Stethoscope Review:レビューサイト

聴診器ケース

聴診器は、チューブが跳ねたりペタ着いたりして、カバンの中で収まりが悪い。ケースがあるといい。聴診器を持っていって100円ショップで合うサイズのを探してもいい。米国Amazonには、サードパーティーのリットマン専用や汎用のケースがある。

サイズの目安は、チューブが無理に折れ曲がらないこと。ダブルルーメンのチューブに折れ癖が付くと、内腔が狭まって聞こえにくくなることがあるらしい。

クラシックIII向き。ハンマーやペンライトなどの小物を入れるポケットがある。

カーディオロジーIV専用。聴診器の保証書、パーツ、ハンマー、ペンライトなどの小物を入れるポケットがある。カーディオロジーIVの外箱と同じ大きさで、聴診器の保管にはよいが、携行には持て余すかもしれない。

汎用のケース。ハンマーやペンライトなどの小物を入れるポケットがある。

どこで買うか

納期、サポート、刻印の品質で選択しよう。オススメはパネシアン。刻印不要ならAmazon(直販ないしAmazon発送)。大学生協は説明会での現物確認に利用しよう。

名入れ

病院に勤めると、よほど希な色やモデルでない限り、同じ聴診器がたくさんある。自分の名前を入れるには、ネームタグを取り付けたり、聴診器自体に刻印する。刻印は購入時に店でやってもらえる。

聴診器専門店

納期が早い、刻印できる、不具合がないか店舗で検品している、補修部品も買えるなど、利点がある。刻印の方式は店によって異なる。下の店はいずれも当日〜翌営業日発送。

Amazon

Amazonでも聴診器が売られている。Amazon直販のほか、他の医療機器販売会社がマーケットプレイスで売っている。同じ製品でも販売会社によって価格やサービスに違いがある。

大学生協

本学の大学生協は、時期がくるとメーカーを呼んで説明会を開いている。参加してサンプルを手に取って機種選択に利用しよう。店舗には在庫はない。取り寄せや刻印は納期を要する。名入れはチェストピースへのレーザー刻印だが、6文字までなど、制限強め(詳細は店舗へ)。

医療機器の業者

家業が病院や医院なら。

メーカー直販

在庫はあるが、値引きがないか、あっても少しだけ。

買ったら

検品して、ユーザ登録して、記念撮影してインスタ

ながくつかうには

  • バイノーラルのチューブは皮脂が付くと可塑剤が抜けやすく、硬化が進む。聴診器を頸に掛けずに白衣のポケットに
  • バイノーラルを開きすぎるクセがあると、スプリングが緩みやすい。折れることもある
  • バイノーラル、ダイアフラム、リムなど、主な部品は交換部品が販売されている
  • 病院には聴診器が沢山あって紛れやすい。希少な色や機種を選ぶとか、ネームタグを付けるとか

メンテナンスなどに関する情報

聴診器を消毒する

聴診器によるクロスコンタミネーションに関して文献がある。例:

Longtin Y, Schneider A, Tschopp CM, Renzi GL, Gayet-Ageron AL, Schrenzel J, Pittet D. 2014. Contamination of Stethoscopes and Physicians’ Hands After a Physical Examination. Mayo Clinic Proceedings 89:291–299.(要旨:診察後の医師の手や聴診器のコンタミネーションは無視できない。患者に直接触れるチェストピースだけでなく、チューブも同程度あるいはそれ以上コンタミネーションがある。院内感染を防ぐには、診察ごとに手や聴診器を消毒することが大切)

病院で酒精綿をもらって、聴診器を消毒しよう。

病院によっては、聴診器は支給ないし病棟備え付けのことも。患者毎に使い分ける場合もある。

聴診器は白衣のポケットにしまうよう指導されることがある。OSCEで聴診器を頸に掛けると減点されるらしいが、OSCEの評価項目にはみあたらない。不潔だからとか威張ってみえるからとかといわれるらしいが、都市伝説だろうか。

聴診をアプリやサイトで練習する

III音・IV音は、スマホの小さなスピーカーでは再生できないから、ヘッドホンがお勧め

更新履歴:

  • 2018/4/26 ティーエスフォネット追加
  • 2017/6/19 小修正
  • 2017/6/14 情報追加
  • 2017/6/3 小変更
  • 2017/5/1 最初の投稿

アイキャッチ画像:世界初の電子聴診器で自分たちの心音を学ぶ医学生たち Wikimedia

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