鼡径管はグレイで
昨日の解剖学実習の最後は鼡径管の解剖だった。鼡径ヘルニアを理解するには鼡径管の解剖が必須だ。
鼡径ヘルニアの手術は、新人外科医が最初に修練する手術の1つだ。そこには外科の基本的な手技があり、手術すべてに共通する「膜」の概念の理解がある。
それにもかかわらず、解剖書の多くには、鼡径管の成り立ちが正しく書かれていない。『グラント解剖学実習』も『解剖実習の手びき』も図がダメすぎて、みると剖出を間違うので、害になるばかり。
鼡径ヘルニアの手術の主流は、1980年代に開発されたリヒテンシュタイン法と、そこから1990年代以降に発展した腹腔鏡手術だ。いずれもメッシュを敷いて膜を補強する。その間に、鼡径管の膜構造の研究が大きく進んだ。その成果を取り込んでいるかどうかで、解剖学のテキストの記述の正しさが大きく変わる。
『グレイ解剖学』『グレイ解剖学アトラス』は、現代的な的確な記述だ。特に、『グレイ解剖学アトラス』の鼡径管のイラストは見開き2ページの大きな図で、冊子ではほぼ原寸大になり圧巻である。
外科医が手術の話をすると、いつのまにか膜の話になっていたりする。それを解剖学者が追求したりすると、「序説」というくせにそれはもう難解なくらいになる。
ところが、解剖学実習のテキストでは、あまり膜のことは書かれていない。ホルマリン固定では膜が固着してしまい、うまくみられないからだろう。Thiel固定など、組織の柔軟性を保てる固定法では、膜の解剖をうまくできる。ただし固定が弱いので、医学生の長期にわたる解剖学実習には向かない。本学では、卒後の外科手術の研修のために、Thiel固定された解剖体を利用した機会を提供している。
精管をつまんで鼡径管をみつけましたと報告にきた履修生の件は、こちらにもあるのでぜひ(今年は危ういところで止められた)
