ゆるっとポップな解剖生理学 からだずかん

 

角野(かどの) ふちさんは、看護師でイラストレーター。書籍や雑誌記事にイラストを提供している。本書は、ヒトの体の仕組みを学べるサイト「からだずかん」が元になっている。角野さんが筆頭になる初めての著書だ。この本には1000点以上のイラストがあるらしい。

KADOKAWAストア、Amazon.co.jpなどで期間限定の特典やサイン本もある。

 

特典のしおり、サイン本のサイン

 

進行役は、アナちゃんトミー先生(ヤン坊マー坊みたいだ)、そして、キャラ化されたいろいろな内臓の「ぞうもつくん」たち。ボールドな輪郭線と大きなキラキラした目が特徴的で、みかければすぐに角野ふち作品とわかる。

すべてのページに「ベージュ色」(うすだいだい、ペールオレンジ)の地が施されていて、温かみがあって、眼に優しい。

本の内容は、解剖生理学。看護、PTOTなどの学科で学ぶ科目で、解剖学と生理学がインテグレートされている。解剖学としては、『グレイ解剖学』のような局所解剖学ではなく、『イラスト解剖学』のような系統解剖学の方式だ。

サイトのほうの「からだずかん」はまだ、循環器系、呼吸器系、消化器系、脳・神経系、泌尿器系までだけれど、冊子の方の『からだずかん』には、プラス、血液・免疫系、内分泌系、運動器系、感覚器系と続いて、系統がコンプリートされている。

 

アナちゃんとトミー先生

 

ぞうもつくん

 

まえがき

 

細胞、組織、内臓(器官)はいずれもキャラ化されて親しみやすい。一方で、形の正しさを要するところでは、いい感じに正しく描かれている。

実際の形を知らないとどのイラストがデフォルメされ、どれが正確に描かれているか、みわけにくいかもしれない。そこは、すぐわかる印がつけられている。デフォルメされているイラストには眼があり、正確に描かれたイラストには眼が付いてないのだ。

正確さが「いい感じ」というのは、実際の形態のまま立体的に精密に描いたとしても、かえってわかりにくくなりがちなんである。形状が破綻しない範囲で、ぱっと見で理解できるように描くのは、その案配に工夫がいる。

例えば心臓など、実物を解剖してみないと立体の把握は難しい。というか、実際に解剖しても心臓は難しい。心臓の立体画をどう描くかだけで本が1冊できるくらいだ。

 

 

細胞も器官もキャラ化されて、眼が付いている

 

それなりに形がちゃんとしているイラストには眼が付いていない。流出路のねじれの描写はちょっとムリがある

 

それなりの正確さがよいというのは例えば、乳頭筋と腱索のはたらきの説明。これらがパラシュートで描かれていて、これらがどう働いているのかをみてとれ、とてもわかりやすい。

 

乳頭筋のはたらき(右ページ)

 

気管支の分岐の左右差や、肺の分葉など、臨床で重要なこともちゃんと言及されている(気管支に描き込まれた角度が、分度器で測るとだいぶずれているけれども)。

 

気管支の分岐と肺の分葉

 

トミー君が、意味なく脱いでいたりする。もうすこしシャツをたくし上げてほしい。

 

トミー君の後ろ姿

 

1つのテーマが見開き2ページにまとまっていて、テーマごとに独立して読めるので、すきなところから読み進められる。

ただし、見開きのシバリがキツい部分もちょっとはある。免疫の概要のあたりは、かなり盛りだくさんでお腹いっぱいだ。しかしもしお腹いっぱいでも、もうちょっと知りたければ、本書をきっかけに、マジな方のテキストを見たらいい。

 

免疫の概要は大盛り

 

解剖生理学は、看護科やPT・OTなどでも、暗記が多くて嫌われがちかもしれない。イラストで楽しくざっとみはらすのに、本書は役立つ。「ゆるっと」している類書は少なくないが、医学的にも「ゆるい」のもみかける。本書では正確に押さえるべきところは押さえられている。間違った知識を仕込んだままミッションクリティカルな現場に立つようなことにはならなそうなので、安全である

若干ディテールで気付くところはあったけれども、バージョンが上がっていくだろう。

 

紙面の写真のこの記事への使用についてKADOKAWA様より許諾をいただきました(2024年5月17日)。