ラングマン人体発生学 第12版(原著第15版)

ラングマン人体発生学 第12版

ラングマン人体発生学 第12版

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ムーア人体発生学』とともによく使われてきた人体発生学のテキスト。医学部の授業でいずれかが教科書指定されることが少なくないだろう。今回の改訂によって、日本語版が原著第15版(現行)と揃えられた(日本語版の改訂が3回スキップされたので版の番号が原著とずれている)。

 

訳者序文

 

原著者序文

 

『ラングマン』の特徴をあげると、次のようになる:

  • 形態・分子・臨床の全方位をカバー
  • コンパクトな判型に、凝縮された情報とたくさんの図
  • 新しい情報が積極的に取り入れられている
  • 動画付き

発生学には3つの視点がある:

  • 形態学としての発生学(発生の形態変化を丁寧に観察し記述)
  • 発生生物学(発生の因果を細胞や分子のレベルで説明)
  • 臨床との関連(先天異常の仕組みを発生学や発生生物学から裏付け)

誌面や価格や授業時間に限りがある中で、これにどう折り合いを付けられているかの見極めが、テキストの選択のポイントになる。たとえば、『ムーア』は形態学と臨床にフォーカスし、分子をほぼ外している。

『ラングマン』は全方位をカバーしている。同様の方針のテキストに、『Human Embryology and Developmental Biology』や『ラーセン人体発生学』がある。『ラングマン』はこれらのいずれと比較しても、判型が小さくコンパクトだ。

今回の日本語版の改訂では、文章の読みやすさが改善されたらしい。また、妊娠時期の国内外の違いについて明確化され、「鰓弓」「咽頭弓」が「咽頭弓」に統一された。「鰓弓」だとヒト胎児に鰓ができるかのように誤解されがちなのでよかった。くわしくは『ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト』で

誌面のデザインも見直され、図への参照に色文字のアクセントが付けられるなど、見やすく、使いやすくなった。巻頭の発生のまとめの図がカラー化されて見やすくなった。

 

巻頭の発生のまとめ

 

文章の改善があるとはいえ、もともと原文は内容が凝縮されすぎていて、ストーリーを掴みにくいきらいはある。図をみてもわからない部分もある。学部生のテキストとしては難しいかもしれない。もし教科書指定されていて、ここから出題されるという状況で困ったら、訳者のひとりが参画しているコンパクトなテキスト、『ひと目でわかるビジュアル人体発生学』で予習したらいい。

今回の改訂で入った新しい情報が2つある(訳者まえがきより)。

  • 外耳道が第1咽頭に由来する(従来は第1咽頭とされていた)
  • 仙骨神経に由来する自律神経は交感神経(他のテキストでは交感神経)

外耳道の由来については訳者自身が原著論文に当たって確認したらしい。手元にある他の発生学のテキストでは第1咽頭になっていた。本書には参考文献のリストがないので、こういうときには訳者に頼らざるを得ない。

仙骨神経の自律神経が交感神経だとする2016年の説については、まだ定説がない。日本語版では訳注として補足説明と参考文献が入っている。

 

外耳道は第1咽頭弓由来(第1咽頭嚢ではなく)

 

仙骨神経は交感神経?(副交感神経ではなく)

 

従来から付属していた発生のムービーは、この版からVimeoで提供されるようになった。アクセスはQRコードで、パスワードを入れると見られるようになる。本のサイトからもアクセスできる

各章ごとに5分前後のムービーにまとめられているので、これを先にみてアウトラインを得ておくと、本文を読むときに迷子にならずにいいと思う。

ムービー自体も一新され、立体的で見栄えのする仕上がりになった。以前のはFlashムービーで、線画のポンチ絵がガクガク動くだけだったのである。本文やイラストで形の変化が理解できなかったら、ビデオをみてみよう。だいぶ助けになる。解説は英語だが、英語字幕を表示できるので聴き取りに困ることはないだろう。

なお、原著者序文にはthePointでUSMLEの練習問題を使えるとあるが、日本語版第12版には付属していない(日本語版第11版には付属していた)。

ムービーのQRコード

 

付録のビデオ(心臓の流出路の中隔がねじれる場面)

 

内容を見ていこう。全体が2つに大きく分けられている。

第1部が総論。最初に、発生生物学の範疇の分子シグナルの概説がまとめられている。つづいて、配偶子形成から、胚子期(第1週〜第8週)までが章を分けて説明される。胎児期(第9週以降)が2章に分けて語られ、最後に発生異常の章がある。

第2部は各論で、系統別あるいはトピック別に詳説される。

 

2部構成

 

心臓脈管系の発生の章をみてみよう。コンパクトな本にたくさんの情報が詰まっている。文章は要約的で高密度だ。それを補う図もたくさんある。

 

心臓脈管系

 

臨床との関連事項は、地色が変えられていてわかりやすい。例もたくさんあって、発生学を学ぶモチベーションを高めてくれるし、理解を補ってもくれる。章末には練習問題があり、章のポイントを再確認できる。答えは巻末にある。

 

臨床との関連事項

 

章末問題

 

イラストは、前版のときと変わらず、線画に陰影をつけた模式図が多い。モダンな印象だ。一方で、描写が的確かは留保したい。

『ラングマン』のイラストはもともと点描画に彩色されたものだった。これが前版の改訂のときにトレースされた。Adobe Illustratorが使われたのだろう、線画にグラデーション塗りつぶしで彩色されている。

しかし、もとの点描がのほうが立体の表現は巧みだった。なかには描き直されて形が変になったのもあり、残念だ。たとえば、発生中の心臓の図では、心室中隔まわりに、変な形が出現しているようにみえる。動脈弓の合流部の形が曖昧になっているし、心室の肉柱が壁の虫食いのような形になっている。

 

IMG_3150

血流(矢印)が壁を突き抜けているようにみえる。室間孔を示す楕円の周りが、変な構造として描かれている(日本語版第11版から;第12版も基本的に同じ)

 

IMG_3205

もとは点描画で、矢印の意味がみてわかる。陰影も豊富なので立体感がある。第9版から同じ図。

 

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