ねじ子の人が病気で死ぬワケを考えてみた / 令和医療手技図譜
森皆ねじ子先生から新刊をいただいたので、紹介しよう。
『ねじ子の人が病気で死ぬワケを考えてみた』は、2017年の同タイトルの既刊の文庫化。(群馬大学医学図書館に収蔵予定。)
文庫化にあたって、既刊の後のアップデートが追補され、手書き文字が活字になって万人に読みやすくなっている(手書き文字が苦手な人はいる)。手書き文字で強調されていた部分は、太字や倍くらい大きな太字で再現され、「ノリ」は継承されている。
巻末には参考文献のリストがちゃんとある。数は省略されていると思われるけれども、例えば新型コロナのあたり、あの本やあの記事のあの辺りの話だというのがわかるから、文献調査はバッチリだったはず。
本書がどういう本なのか、説明が難しい。何か哲学的な本のようにも想像されるかもしれない。そうではなく、人が病気で亡くなっていくとき、どういう仕組みで死に至るのかが、医学的に淡々と説明されている、そういう本だ。
マンガなので、ギャースカ、ドタバタでもって記述されていたりするけれども、著者のスタンスはエビデンスに基づいてあくまでも落ち着いている。
亡くなっていく人を看ていったことのある医療関係者にはおのずと理解されていることだろうけれども、ふつうの人にとっての死は他人のことだ。それでもいつかは、そんなのが自分にもやってくるわけで、それがどんなものか、あらかじめみておこうという、そういう本だ。
既刊はレビューしたことがあるけれども、改めて見てみる。
死に至る病として、本書では主要な死因から4つがとりあげられている。
- 細菌感染症
- ウイルス感染症
- がん
- 生活習慣病
最初は細菌感染症。免疫系の働きと、それが追いつかなくなって敗血症に至るまで。そして、抗生剤の発明と、耐性菌の出現。
次はウイルス感染症。免疫の働きと、細菌に対する抗生剤のような特効薬は(ほぼ)ないこと。そしてなんといってもワクチンが重要だということ。
文庫化にあたって、新型コロナウイルス感染症について、大きく追補されている。
病原体との共生について、変に誤解されるかもしれない気がするので注意しておく。例えばインフルエンザウイルスなら少なくとも紀元前から存在していて、人を含むホストとの関係やら、人の衛生の取り組みやらで、なんとか人は持ちこたえられるような状態に至っている(ワクチン接種しましょう)。それでもときどき新型インフルエンザウイルスのような変異が起こって、人類は慌てる。新型コロナウイルスはというと、まだ全然そんな段階ではなく、今後どうなるかわからない。
そもそも、現代医療のなかった時代も病原体と「共生」していたには違いないが、30歳そこそこで死んでいたんである。(新生児死亡が多かったので平均寿命はさらに下がる。)
死因の3つめは、がん。進行したがんの治療がどんなものか、「無理ゲー」として説明される。これも、もしかして変に誤解されるかもしれないので説明しておこう。
「無理ゲー」だから「がんの治療は初めからしない」と短絡してしまいそうになるが、がんの治療法は、エビデンスに基づいた「標準治療」として確立されている。「ゲームオーバー」までの期間を延ばせるチャンスはあるし、そうでなくてもなるべく幸せに過ごせられるように工夫もできる。もしそうなったら、お医者が一緒に考えてくれるはず(Shared Dicision Makingという)。「標準治療」以外の、医師が独自に思いついたり裁量でやって健康保険が使えず高額な請求が来るのは、多分、アカンやつ。
最後は、生活習慣病。感染症で亡くなることが少なくなって人の寿命が伸びたことによって顕在化した、死に方だ。
同人誌もいただいた。『令和医療手技図譜 新型コロナウィルス編 物資不足の巻』・同『街も人も動き出すの巻』の2冊。この8月に開催された「コミックマーケット103」での新刊だ。
『物資不足の巻』は、2019年末の新型コロナの始まりから、マスクもアルコールも防護具もなくなり、最初の非常事態宣言が発令されるまでのまとめ。『街も人も動き出すの巻』は、非常事態宣言が解除され、各業種のガイドラインができ、感染対策をしながら人々が活動をはじめた2020年の前半まで。このあとまだ、非常事態宣言は繰り返されるし、デルタはくるし、ワクチンができて大慌てで接種するし、話は続くはず。まとめて一冊の同人誌になる予定という。現在はなんとなく新型コロナがなくなったような感じになって数年前のこともわすれそうだが、それまでの記録が一冊になっていたらいいと思う。
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