ひと目でわかるビジュアル人体発生学

ひと目でわかるビジュアル人体発生学

ひと目でわかるビジュアル人体発生学

山田 重人, 山口 豊
3,960円(10/05 13:04時点)
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人体発生学の新しいテキスト。特徴は4つ:

  • ビジュアルでコンパクトで図がたくさんある
  • 見開き2ページにワンテーマで、解説文・図・用語説明がコンプ
  • 形態学にフォーカス
  • Kyoto Collectionのひとたちが書いた

クリーム色のカバー、パステルカラーのイラストなど、やさしい感じのデザインだ。

編集部のツイッターの紹介がわかりやすい。(「うつくしいライン」は謎)

 

まえがき

 

発生学の教科書を選ぶのは難しい。ニーズはあるけれども、何にでもフィットするテキストはないか、制作困難である。というのも、現代の人体発生学には3つの視点

  • 形態学としての発生学(発生の形態変化を丁寧に観察し記述)
  • 発生生物学(発生の因果を細胞や分子のレベルで説明)
  • 臨床との関連(先天異常の仕組みを発生学や発生生物学から裏付け)

があって、学問自体が増量中だ。そして、CBTや国家試験にも出題される。一方で、多くの医学部で人体発生学の授業はちょっとだけしかない。本学では、1年生の発生生物学枠でちょっと、2年生の解剖学の一部としてちょっとあるだけだ。

そういうわけで、テキストを買おうとはなりにくい。しかし、前提知識のないところから人体発生をシステマティックに学ぶには、やっぱりテキストを読むのが早い。モチベーションの低いなかでとなると、上の視点をどれかは削減したい。本書は形態学にフォーカスされている。

形態学の新しいテキストをつくるということは、図を新しく用意するということでもある。既存のテキストにないような、文脈の隙間をつなぐ図もいろいろ必要だったはずだ。人体発生学では新規のイラスト作成が難しい。ヒト胚の一次資料を持っている研究施設も研究者も少ないからだ。

生命倫理上ヒト胚の資料を新たにつくるのは困難で、既存のを元にするしかない。そういうコレクションは世界的にも限られている。そのうち最大で、ヒト発生ステージ制定の元になったカーネギー・コレクションは、博物館にアーカイブされてしまった。いまも研究材料として提供されているのは、実は日本にある。京都大学先天異常標本解析センターのKyoto Collectionだ。関係者からの人体発生学のテキストとしては、まず『カラー図解 人体発生学講義ノート』がある。そして、本書だ。

京都大学の発生学の授業では歴史的に、『ラングマン人体発生学』を教科書にしている。しかし『ラングマン』の方は臨床や発生生物学をインテグレートしようとしてダンジョン化してしまった。エッセンスをというニーズは、確かにある。

『ラングマン』、『ムーア人体発生学』と、構成を比較してみよう。分子生物学が含まれないこと、四肢発生が別立てになっていないこと、一方でカーネギーステージがリスペクトされていること、内分泌器の発生の章があることが違いだ。

 

ビジュアル人体発生学 ラングマン人体発生学 ムーア人体発生学
❌️ 第1章 分子的制御とシグナル伝達序説 第21章 発生期によく用いられるシグナル伝達経路
第1章 カーネギーステージから見る器官発生 第2章 生殖子形成:生殖細胞の男性および女性生殖子への転換
第3章 発生第1週:排卵から着床まで
第4章 発生第2週:二層性胚盤
第5章 発生第3週:三層性胚盤
第6章 発生第3週から第8週まで:胚子期
第7章 腸管と体腔
第8章 発生第3か月から出産まで:胎児と胎盤
第1章 ヒトの発生への序章
第2章 ヒトの発生の第1週
第3章 ヒトの発生の第2週
第4章 ヒトの発生の第3週
第5章 ヒトの発生の第4~8週
第6章 胎児期:第9週から出生まで
第7章 胎盤と胎膜
第8章 体腔,腸間膜,横隔膜
第2章 受精卵から胎児ができるまで
第3章 筋骨格系の発生 第10章 軸骨格
第11章 筋系
第14章 骨格系
第15章 筋系
❌️ 第12章 体肢 第16章 四肢の発生
第4章 消化器系の発生 第15章 消化器系 第11章 消化器系
第5章 呼吸器系の発生 第14章 呼吸器系 第10章 呼吸器系
第6章 循環器系の発生 第13章 心臓脈管系 第13章 心臓循環器系
第7章 泌尿生殖器系の発生 第16章 尿生殖器系 第12章 泌尿生殖器系
第8章 頭頸部の発生 第17章 頭・頸部 第9章 咽頭器官,顔面,頸部
第9章 神経系の発生 第18章 中枢神経系
第19章 平衡聴覚器
第20章 視覚器
第17章 神経系
第18章 眼と耳の発生
第10章 内分泌器の発生 ❌️ ❌️
第11章 外皮の発生 第21章 外皮系 第19章 外皮系
❌️ 第9章 先天異常と出生前診断 第20章 先天異常

 

ページを送っていこう。

第1週の卵割から着床までが描かれた見開き。左ページに簡潔な説明文があり、それに対応する図がそれぞれの見出しごとに右ページにある。説明文で解説なしで使われた用語が、左下の囲みになっている。たまに、ウンチクもある。

小口が浅く、のどが深いのは、はなしを見開きに収める工夫だろうか。電子版なら冊子体のこういうハードウエアは関係ないからいいのだ。

 

見開きでコンプ

 

ところで、この項目の図で着床時の胚がひしゃげているのは、カーネギー・ステージを定めた原著など、その時代の資料に拠っているのかもしれない。一方で、別のテキストには、胚がぷっくり丸くなっている資料もある。ヒト以外ならアーチファクトがでないように試料作成からとなりそうだが、ヒトではそういかないのが難しい。

 

カーネギー・ステージの原図から(Ronan O’Rahilly & Fabiola Müller. 1987. Developmental stages in human embryos : including a revision of Streeter’s “Horizons” and a survey of the Carnegie Collection. Carnegie Institution of Washington.)

 

『ムーア人体発生学』に引用されているカーネギー・コレクションの図から

 

形態にフォーカスしているようすを確認しよう。軸骨格の発生の説明は、体節から骨ができるまで。HoxやSonicはでてこない。神経管の発生でも、やはりSonicやWntやBMPはでてこない。閉鎖不全のような臨床関連事項もない。書きたいのをよほど堪えないといけなそうだ。

 

軸骨格の発生

 

神経管の発生

 

図がたくさんあるのは助かる。骨の発生に膜内骨化と軟骨内骨化があるのはどの教科書にもあるけれども、例えば頭蓋骨でどの骨がどちらかとは意外にあいまいになっている。本書では図にまとめられていて、ありがたい。

 

膜内骨化と軟骨内骨化

 

心臓の発生では、一次・二次心臓領域が記載されている。二次心臓領域は発生生物学ででてきたテーマで、古い人体発生学のテキストには載っていない。

 

一次・二次心臓領域

 

房室中隔のイラストは、『ラングマン』の古い点描画がベースになっているようだ。

『ラングマン』のほうでは、点描画がイラレでトレースされたときに劣化コピーになってしまい、まるでオカシな図になっている。そちらの翻訳者は本書の著者でもあるが、本書の図はちゃんと正されている。

 

房室中隔

 

囲み記事がいくつかあって、筆者ら独自の資料や、発生学研究のウンチクになっている。まあ、教科書的な解説だけでは堅苦しいから。

 

網嚢の発生に伴う、知られていない膜

 

エポニムのうんちく

 

内分泌器の発生がまとまっているのは便利だ。

 

内分泌器の発生

 

フォーカスがはっきりしているので、本書を使うかどうかは、自分のアウトカムが何かによるだろう。

発生学の授業が形態学だけなら、本書はコンパクトで便利だ。図が多いので、授業のスライドがアレなときにも参考にできる。

CBTや医師国家試験には発生異常も出題される。その基礎力にしようとなると、形態学だけでは足らない。授業で分子にも言及されることもあるだろう。とはいえ、授業のスライドが本書の補足になるならよい。

医師国家試験

疾患と心血管異常の組合せで誤っているのはどれか。(第101回 F24)

    1. DiGeorge症候群 – Fallot四徴症
    2. Marfan症候群 – 僧帽弁逸脱症候群
    3. Osler病〈遺伝性出血性末梢血管拡張症〉 – 肺動静脈瘻
    4. Turner症候群 – 大動脈縮窄症
    5. 先天性風疹症候群 – 完全大血管転位症

本学過去問

4歳男児。急な腹痛、発熱、下血により、救急搬送された。画像診断によりメッケル憩室炎と診断され、緊急手術となった。メッケル憩室は何の遺残物か。

    1. 静脈管
    2. 中腎管
    3. 腹側膵
    4. 尿膜管
    5. 卵黄管
    6. 臍帯動脈
    7. 中腸ループ