美しい生物学講義
著者は生物学者。進化論や古生物学に関する一般向けの著作がある。進化をシニカルな視点で概観した『残念な進化論』は以前紹介した。
人はとかくヒトが一番偉いと思いがちだ。
以前大阪の研究所で働いていた友人から、こんなことを聞いた。
若い医師2名が、学位を取るための腰掛けの研究に来ていた。マウスの解剖を指導していたら、彼らがなにか浮かない顔をしていた。気分でもわるいかと聞くと、「どうしてマウスなんか研究しなきゃいけないのか」といわれて驚いた
これを聞いたときは驚いたけれども、もしかしたら、何が驚きなのか伝わらない人もいるのかもしれない。
本書は生物界全体をみわたしている。どれが偉くてどれが下等ということなく、現世の種を平らに論じている。もしヒトが一番な気がしていたら、視野を平らにするために本書を読んでみよう。
本書でとりあげられる話題は多数ある。
- はじめに
- 第1章 レオナルド・ダ・ヴィンチの生きている地球
- 第2章 イカの足は10本か?
- 第3章 生物を包むもの
- 第4章 生物は流れている
- 第5章 生物のシンギュラリティ
- 第6章 生物か無生物か
- 第7章 さまざまな生物
- 第8章 動く植物
- 第9章 植物は光を求めて高くなる
- 第10章 動物には前と後ろがある
- 第11章 大きな欠点のある人類の歩き方
- 第12章 人類は平和な生物
- 第13章 減少する生物多様性
- 第14章 進化と進歩
- 第15章 遺伝のしくみ
- 第16章 花粉症はなぜ起きる
- 第17章 がんは進化する
- 第18章 一気飲みしてはいけない
- 第19章 不老不死とiPS細胞
- おわりに
まず「生物とはなにか」から。隔壁の存在や「散逸構造」など、クライテリアをくわしく論じている。
さらに生物界を概観し、アーキアを含む現代的な分類を紹介する。本書で「古細菌」とは表現されないのは、細菌の祖先の生物との誤解を避けるためだろう。
種の上下にも論が割かれる。系統樹の描き方1つで、ヒトが上に行ったり、平らになったりする。
いまでも「存在の大いなる連鎖」のまま、魚類から両生類、両生類から爬虫類、爬虫類から哺乳類、哺乳類のてっぺんがヒト、と進化を説明するコンテンツは多い。そもそも、中学の生物学が(少なくともちょっと以前まで)そのようにミスリードしていたようだ。
『イラ解』にも、ヒトも胚には鰓ができるとあって、「存在の大いなる連鎖」の呪いにかかっている。脊索動物に広く鰓弓は生じるが、アレはヒレではアリマセン(そのために、意識高めな発生生物学者は咽頭弓という。)
若い恋人たちらしいキャラクターが描かれたイラストが、本文中や章末にある。どうやら、この本を読みながら感心したり感動していたりする読者ということらしい。
「おわりに」と最後のイラストは、途中を飛ばし読みしたとしても、みておこう。本書のタイトルの答え合わせになる。
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