イラスト解剖学 第10版
『イラスト解剖学』、通称『イラ解』が改訂されて第10版になった。初版から数えて24年。平均して約2.6年ごとに改訂されている。『Molecular Biology of the Cell』でも6年に一度。解剖学のテキストとしては異例のスピードだ。
最初はイラストでとっつきやすいテキストだったが、改訂毎の増ページで今や900ページ超え。996ページの『グレイ解剖学』原著第4版に近い。次か、次の次の改訂で1,000ページの大台に乗りそうだ。
そのかわり、第2版以降は価格据え置きの7,600円で、ページ単価がコンスタントに下がってお得になっている。
「ゆるい」タッチのイラストで解剖学やそれに関連する臨床事項のいろいろなトピックが説明される。イラストの印象に反して、内容はしっかりした臨床解剖学だ。
全体は概ね系統解剖学に沿っている。実習の予習に読むには面倒があるけれども、それぞれのトピックが1ページごとにまとまっているので、拾い読みできる。『グレイ』の通読に飽きたときにぱらぱらとめくってみるのもいい。
試験に出そうなポイントを手っ取り早くレビューするのにも使える。臨床との関連が多く紹介されているので、ハードコアな形態学に辟易したときにモチベーションを保つのにもよい。
イラストは、第9版のときに、それまでの線画に彩色が施された。もともとわかりやすい模式図だったが、よりわかりやすくなった。文章の部分もこのときに組み版が組み換えられ、読みやすくなった。
イラストがゆるいとはいっても、ある程度写実的に描かれたものもある。人体は巧妙に構造が組まれているので、ゆるいばかりでは解剖図として破綻するのだ。
臨床ですぐに役立つ解剖学が豊富だ。冠動脈の枝は臨床でよく使われる名称が採用されているし、AHA分類もある。
画像解剖学にも言及されている。ふつうのX線写真だけでなく、この版ではCTやそれに基づく区域解剖の話題も追加された。
ところどころに、昭和なキャラクターがいる。手塚治虫はもちろん、吾妻ひでおの影響も感じられる。
ところどころに、語呂合わせが紹介されている。巻末には語呂のまとめもある。また人名のついた解剖学用語の解説もある。いずれも記憶の助けになるだろう。
本書には、肉眼解剖学だけでなく、発生学と神経解剖学も含まれる。個別に教科書を買うほどでもなさそうなときに、とりあえず授業には本書でたくさんかどうかみておくと、お金の節約になる。
発生学は巻頭に初期発生までがあり、個々の器官発生はそれぞれ系統解剖学に沿ったところにある。神経解剖学は最後にまとまっている。
この第10版には電子版もある。改訂で厚くなってるので、電子版の方がいいかもしれない。
著者の松村讓兒氏は現在杏林大学医学部の特任教授になられている。『Gray’s Anatomy』のように150年以上は続かないかもしれないが、引き続き改訂が続くのはありがたい。ゆるいイラストをつかった医学関係のテキストは海外にも少ないし、『イラ解』ほどコンプリートなものは存在しない。『マンガでわかる』シリーズのように英訳して、鬼滅といっしょに世界に打って出てもよいのではないだろうか。
Anatomy Essentials For Dummies (English Edition)
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