バーチャルスライド 組織学
組織学のアトラス(図譜)。バーチャルスライドへのアクセス権が付いていて、本に掲載されたスライドの一部(52枚)をスマホ、タブレット、パソコンで閲覧できる。
COVID-19の流行のために、大学の授業が影響を受けている。バーチャルスライドがあれば、在宅のまま組織学実習はできそうだ。
冊子の付録としてバーチャルスライドが付いている組織学書には、ほかに『ジュンケイラ組織学』がある。こちらはアトラスではなく教科書。バーチャルスライドは一般公開されているので、本を買わなくてもアクセスできる。ただし、バーチャルスライドのサイトは英語で、レスポンス遅め。また、冊子との連携が薄い。
このバーチャルスライドのデータは、筆者らの大学で制作・使用されているもののようだ。
冊子には、バーチャルスライドとして提供されているもの以外にも多数の顕微鏡写真が掲載されている。H&E染色の光学顕微鏡写真が主だが、特殊染色の写真も少数ある。また電子顕微鏡写真も使われている。
いずれも高品位な写真だ。退色などで劣化したスライドには適宜カラー調整が施されたらしい。もっとも、カラーバランスや色ムラをもう少し補正できそうな図もないわけではない。
また、光学顕微鏡写真に染色方法が付記されていない。H&E染色以外には染色方法を明示したいところだ。
組織学自体の理論的な解説はごく少ない。各節の冒頭で概略が示されるだけだ。組織学の概念は、この冒頭の概説と、写真のキャプションでカバーされているだけだ。
模式図がないので、顕微鏡写真だけで説明できない概念を本書で理解するのはむずかしい。たとえば、Tリンパ球の成熟の仕組みは本書では理解に足らないだろう。あらかじめ組織学の教科書などで勉強しておく必要がある。
一方で、H&E染色の組織標本と光学顕微鏡だけの、ごくふつうの組織学実習の代わりと考えれば、本書の方向性は有望と思われる。
バーチャルスライドが提供されているスライドは、VS○○ とスライド番号が示される。バーチャルスライドの弱拡大像に赤枠で強拡大像の位置が示されていて、バーチャルスライドを観察するときに、目的のものをすばやくみつけられるようになっている。
実際にバーチャルスライドにアクセスしてみよう。端末は11インチiPad Proで、学内LANのWiFiを使った。WiFiは802.11ac、ビル間は光ケーブル、インターネットはSINET。
利用するには、あらかじめ「羊土社会員」に登録し(無料)、ログインする。本に附属するコードを使うと、会員ページの「書籍特典」のところにバーチャルスライドへのリンクが表示される。特別なアプリは不要で、ブラウザだけでよい。
バーチャルスライドの最初のページは、スライドのリストだ。章番号とスライド番号があるので、冊子と対応づけられる。
ここでは、脊髄のスライドを観察してみよう。冊子では下のようになっている。右側の写真の運動ニューロンをバーチャルスライドで見つけよう。
対応するバーチャルスライドを開くと、まず全体像が表示される。画面はRGBなので、CMYK印刷の冊子よりも色調がきれいだ。
冊子の図の赤枠を目安にズームとパンをしていこう。iPadの場合、ズームの調節は2本指でピンチイン・ピンチアウト、位置の調節は1本指をスライドさせる。
単なるデジタル写真を拡大縮小するのではなく、バーチャルスライドでは高精細データが必要なときに必要なだけ端末に届くので、拡大を上げていっても(サーバに余裕がある限り)画像のダウンロードで待たされることはない。(Googleマップと同様)
残念なのはGUIだ。iPadを縦にしても横にしても、このままではスライドが画面の一部にしか表示されない。全画面表示のボタンがあって、それを使えばスライドが画面一杯に表示される。しかし、全画面表示ではズームやパンがうまく動作しない。ズームの+・−のボタンがあるが、iOSの時計と重なってほとんど押せない。2本指ピンチや1本指パンはたまに意図通り反応するが、たいていは通常表示に戻ってしまう。GUIの改善を望む。
さて、この本は各大学で行われている組織学実習の代わりになるだろうか。バーチャルスライドのサーバに余裕を持たせれば、複数の大学の授業で同時にアクセスしても、技術的には可能だ(Googleマップが可能であるように)。教室のWiFi容量も増強で対応できる。問題になりそうなのは下のようなことかと思われる。
- ライセンス:本書を指定教科書にするか。バーチャルスライドのボリュームライセンスは可能か
- 組織学実習の組み立て:学生にどう学ばせるか。スケッチをさせるのか(画面キャプチャができるのにもかかわらず)
- バーチャルスライドの件数:学生に学んでほしいことによっては足らないかもしれない。仮に追加したとして、冊子への反映はどうするか
- Microsoft TeamsやZoomなどと組み合わせて、ライブで質疑応答できるだろうか。
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