平成医療手技図譜 心療内科編
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森皆ねじ子先生(医師で漫画家)の同人誌シリーズ『平成医療手技図譜』の新刊、【心療内科編】(2017年末冬コミ)をいただいた。【精神編】(2016年コミティア)の続刊になる。
『平成医療手技図譜』は、医療手技(診察、注射、挿管など)のテキスト。フォーマットは同人誌だけど、内容は専門書(*)。プロの技には言語化しにくいコツとか加減があるものだが、イラストと手書き文字とで表現され、そういう機微もわかりやすい。
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『平成医療手技図譜』シリーズ(【手術編】も今回改定された)
* このシリーズの巻末には、ここから二次創作物をつくったら参考文献として引用を、との主旨の注意書きがある。内容の正当性を目処とする専門書では大切なこと。
「手技」のシリーズなので、精神科ってなんか手技あったっけ? となるが、イラストとマンガを使うと、精神科の患者さんの特徴的な「風采」とか「病歴」とかわかりやすい……という内容が2017年コミティアの無料配布資料にあった。
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「医療手技図譜」なのに? これを【精神編】【心療内科編】のまえがきにしたらよかったんでは?
【精神編】で扱われていたのは、統合失調症、双極性障害、うつ病だった。【心療内科編】では、それ以外の病気、「神経症」、パーソナリティー障害、発達障害、依存症が扱われる。【精神編】と【心療内科編】とを合わせて、精神科関係でしばしば出会う疾患はおよそカバーされているのではないだろうか(他に追加するとしたら「記憶障害」か)。
【心療内科編】にでてくる疾患名が多いので、目次にしてまとめてみた(本書には目次がなかった):
- 「神経症」……5
- 強迫性障害……12
- 不潔恐怖
- 確認行為
- 縁起恐怖
- 保存恐怖
- 疾病恐怖
- 不安障害……23
- パニック障害……24
- 心的外傷後ストレス障害……27
- 適応障害……28
- 解離性障害……29
- 摂食障害……40
- 閑話休題1:睡眠障害……51
- 閑話休題2:性のトラブル……55
- 強迫性障害……12
- パーソナリティー障害……57
- 境界性パーソナリティー障害……59
- 自己愛性パーソナリティー障害……67
- 反社会性パーソナリティー障害……72
- その他のパーソナリティー障害……74
- 演技性パーソナリティー障害
- 回避性パーソナリティー障害
- 依存性パーソナリティー障害
- 失調型パーソナリティー障害
- シゾイド
- 強迫性パーソナリティー障害
- 妄想性パーソナリティー障害
- 発達障害……85
- 知的障害……86
- 自閉症(カナー型)……88
- アスペルガー症候群……103
- 注意欠陥多動性障害……111
- 学習障害……115
- 大人の発達障害……122
- 依存症……125
- アルコール依存症……127
- 薬物中毒……136
- 急性薬物中毒
- 薬物依存症
本書は労作だ。カバーする疾患の種類が多いのに加えて、それを疾患として表現する作業が嵩んだかと思われる。というのも、本書で扱われる疾患はいずれも、正常から異常まで「地続き」なうちの「異常側」の状態だから。
たとえば「神経症」の症状は、正常な人からみてもある程度共感できる。つまり、正常と異常との境界がボンヤリしている。はた目には、ちょっと変わってんな、で見過ごされるかもしれない。そこで、「そろそろ異常」になったキャラクターには、頭にアンテナを生やしてある。「異常」の記号的表現だ。マンガでは、感情や気分をあらわすのに特有の記号(汗😅、額の影😨、眼がハート😍など)が使われるけど、アンテナはねじ子先生の発明だ。
さらに患者を傍観するウサギなどのキャラクターがいて、「ん?」と疑問を持たせたりして境界付近を示している。
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「精神病」と「神経症」との違いは、了解可能かどうか
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正常な範囲の状態から異常に至るまでのようす。マンガにするとわかりやすい。
患者が病院にやってきたら、キメはICD-10やDSM-5だ。
そして治療になる。これも一筋縄ではいかないし、「認知行動療法」とか、名前を聞いただけでは何のことかわからないのが多い。このあたりは、さすがに文字情報が多くなるが、適宜イラストが使われていて、具体的な様子がわかる。
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患者がやってきて診療となれば、まず診断基準
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そして治療
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認知行動療法をイラスト入りで
それぞれの疾患にまつわる典型的なイベントや表情も、イラストやマンガでわかりやすい。
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境界型パーソナリティ障害のよくある例:両極端をいったりきたり
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自閉症児の特徴を、説明文とICDの基準に合わせてイラストで
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スペクトラムの概念の発明に至る段取り
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アルコール依存症に至るまでのようす
『平成医療手技図譜』シリーズの一部や、雑誌『ナース専科』の連載の一部は、商用化されて書店でも買える。書き下ろしもある。
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