人体発生学講義ノート 第2版
『人体発生学講義ノート』が改訂され第2版になった。初版から2年で、発生学の教科書では改訂が早かった。
著者が京都大学で担当されていた「発生と遺伝」という授業が本書の原型である。実際の授業に基づいているので、消化不良になるほどの分量ではないのが好ましい。初版が251ページ、第2版が272ページなので、4%だけ増えている。それでも厚さ約1センチと薄く、類書と比べて安価なので、気安い。今回の改訂の主な変更点は、発生生物学の最近の進歩が取り入れられたことと、巻末の練習問題がCBTに合わせた5択になったこと。
著者は、京都大学にある京都コレクションを永く整備・維持されてきた(現在は滋賀医科大学学長)。今日、ヒトを材料にした発生学の研究は、どこででもできるわけではない。研究に使えるヒト胚コレクションが、世界的にも限られているからだ。そのうちの最大のが、京都大学にある京都コレクションだ。
本書には京都コレクションからの画像がふんだんに使われている。他の人体発生学の教科書には真似のむずかしいポイントだ。特に、初期胚の画像はとても貴重だ。実際、胎児(多くは流産児や外妊児だったといわれる)を多数撮影したNilssonの写真集『A Child is Born 赤ちゃんの誕生』にも初期胚が欠けている。
人体発生学の教科書の多くでは、出所のハッキリしない記述が少なくない。他の成書の記述を継承しているうちに原典が不明になっている。対して、本書の形態学的記述の多くは京都コレクションからのデータに支えられ、実際にその写真が紙面にある。安心して学べるだろう。一般に通用してしまっている誤りも、実際の標本に基づいて正されており、信頼がおける。
京都コレクションでは標本の電子化が進められている。その成果も使われている。
発生生物学も取り入れられている。誘導現象、ゲノム重複、ツールキット遺伝子など、基本的な概念も説明されている。この改訂では、再生医学やゲノム編集などがアップデートされた。
四肢発生の分子機構は発生生物学の主要なテーマの一つだが、本書では独立した章にはなっていず、1ページのコラムにまとめられている。
臨床へのつながりは少ない。代表的な発生異常についての説明はあるけれども、「MEMO」欄でごく浅く述べられているだけだ。CBTや国試に出題の多いところであり、挿図を入れて充実させてもよかったと思われる。
遺伝子異常によることがわかっている発生異常についてはリストがある。
章末に復習問題がある。形式はCBTに合わせて5択。
本書の模式図は、いずれも簡略な彩色線画。すっきりと目に優しい。一方、陰影や奥行きの表現がなくて立体感に欠けるのは欠点にもなる。実際の標本に当たって立体を熟知していればわかるのだろうが、図がどういう形を表現しているのか、初見では捉えにくいのではないか。
ちなみに、同じシリーズの『カラー図解 神経解剖学講義ノート』の図にも同じことがいえる。
まとめ
- 記述発生学と発生生物学を含む
- コンパクトで学びやすい
- 京都コレクションに基づく図や記述に信頼がおける
- 章末の5択問題が学習に便利
- 臨床への繋がりは薄い
- 図から立体感を捉えにくい
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