ブルーメンフェルト カラー神経解剖学―臨床例と画像鑑別診断
米国で好評な神経解剖学の教科書の邦訳。原著は、神経解剖学書のうち、米国Amazonで最も好評。神経解剖学や臨床神経学を苦手に感じているならオススメ。
邦題は「盛りすぎ」な割に要点が副題に押しやられているが、原題(Neuroanatomy Through Clinical Cases)にあるとおり、本書は臨床症例から神経解剖学を学ぼうという教科書だ。
神経解剖学を学んでいて困るのが、学ぶ理由が皆目わからないことだ。古典的な教科書にはAからBに線維が投射しているなどと事細かに記載されているが、それがどうした? と思ってしまう。本書の訳者もそういう医学生だったらしい。これを克服できたのは、全体像をつかむことと、臨床と関連づけることという、学ぶコツを得たからだったという。本書はまさにそのためにあるような教科書だ。
本書の特徴は、100を超える臨床症例だ。神経解剖学の全般がカバーされるよう、厳選されている。筆者は神経内科の医師でもある。単著だが、厖大な数の協力者がいる。
基礎医学の段階の医学生が症例を学ぶには、多少、事前準備が必要だ。そのためのリソースがはじめの第1〜4章に用意されている。
第1章は、症例提示の様式だ。医師国家試験の臨床問題も含め、臨床症例の記載には一定の様式がある。慣れるために、ここで先にざっとみておこう。数ページだ。
第2章は、神経解剖学の概略。医学生が通常の神経解剖学の講義で学ぶような内容が、短くまとめられている。より詳しい内容は、第5章以降でテーマごとに説明される。
第3章は、神経学的検査の概略。症例提示には、診察や検査の結果が含まれる。基礎医学のレベルの医学生には、聞き慣れないものが多いはずだ。あらかじめ読んでもよいし、症例でわからなかったときにここに戻ってもよい。
この章で紹介される検査法の動画がウエブ上で公開されている(アカウント不要で無料)。
第4章は、放射線診断学。臨床ではMRIやCTでの診断が欠かせない。
第5章以降は、各論のテーマごとに章立てされ、それぞれ症例が提示される。ここでは、第6章の運動路を例にしよう。まず、神経解剖学の範疇の基礎知識がまとめられる。内容は神経解剖学の一般的な教科書と同様だが、臨床上の重要度に沿って記載に軽重がつけられている。
図版が美しい。立体感のある鉛筆画で、落ち着いた色調の彩色がアクセントになっている。また、傷害部位と症状とが一目でわかるなど、よく工夫されている。
解剖学的な一通りの説明に続いて、症例がある。多くの症例は数段階に分けて提示されていて、段階ごとに鑑別を考えたり、名称を覚えたりするポイントが指示される。
本書を読んで、あるいは授業で学べば、すぐに一定の知識が付くだろう。そうなれば、ほかの説明を飛ばして症例から先に読んでいくのが効率的だろう。足りないことは前に戻ればよい。
ほかの章の図版や表も美しく、よく工夫されている。
神経解剖学の総説から臨床まで使い勝手よく構成されていて、読む場所を選ぶことによっていろいろな目的の違ういろいろな読者が利用できる。ドライな形態学の授業を受けている医学生なら、第2章と、第5章以降の基礎知識の部分を使えばよい。研修医なら症例を読んで、解剖を忘れていたら前のページをチェックする。
原著は版が大きい。しかし、見開きで症例を一望できたり、メモのできる余白が多いなど、紙面が余裕を持ってレイアウトされている。日本語版は原著よりコンパクトだが、紙面のレイアウトがキツくなり、多少息苦しく、図と文章が離れていたりして、使い勝手が低下している。
さらに、日本語版には電子教科書が付属していないことだ。原著では、オンラインで読める電子教科書への2年間のアクセス権が付属している。
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