標準組織学 総論 第5版
『標準組織学 総論』が、著者を変え13年ぶりに改訂された。
組織標本を読めるようになることを組織学の学習目標に定め、組織学の教科書を選択する目安として下の4つを挙げた。
- 高品位な光学顕微鏡写真が多数あること
- 文章や写真だけではわかりにくい局面で適宜模式図があること
- 形態を意義付ける機能面、分子面の記述がしっかりしていること
- 新しい知見がフォローされていること(免疫系が目安になる)
これに則ると『標準組織学 総論 第5版』は、医学生向けとしては低評価にならざるを得ない。
『標準組織学 総論 第5版』の、他にない特徴は日本の研究者から集めた美しい写真だ。世界に誇れる成果だ。13年を経て進んだ印刷技術のせいか、同じ写真でも以前の版よりくっきりとしている。レイアウトも刷新され、清廉になった。組織学の教科書というより、筆者らと縁故のある研究者たちのイヤーブックのように思われてしまう。評者は事情がわかるので楽しく読める。
写真の大半は電子顕微鏡写真だ。見慣れないと読み取るのに苦労するだろうし、組織学実習とは関わりがない。ときどき光学顕微鏡写真もあるが、遠慮がちにみえてしまう。
模式図やスケッチが少しある。どういうときに使われるべきか、というポリシーはあまりなさそうだ。同じようなスケッチと模式図が並んでいることもある。いずれもプロのイラストレーターによるものではなく、研究者自身や医学生らによるものだ。意図は伝わるが垢抜けない。これも何かの絵手紙と思えば楽しめる。
科学の進展には後れを取っているようだ。SNAREがいまだ仮説として紹介されている(2013年のノーベル賞にもなったから仮説は脱したはずだ)。
リンパ球形成の説明は古く、章内でも不統一なところがある。現代の教科書にT細胞、B細胞の区別のない図をみるのは残念だ(これらの発見は1960年代後半)。記述中にも「キラーT細胞」や「サプレッサーT細胞」のような古い用語や概念がみられる。樹状細胞(2011年ノーベル賞)については追記されているが、リンパ系全体の説明が古いままなのでちぐはぐな感じだ。
新しい知見が小さい文字で添えられていることがあるが、原著者への遠慮が感じられる。そういう遠慮は、文字組みにもみられる。本書では、句点の代わりに小さなアキが入っている。読みやすくするための原著者の工夫らしい。児童書以外ではみられない。
読み物としては楽しめる。医学生が組織学のスキルを身につけるには、よりプラグマティックで内容の新しい教科書のほうが勧められるのではないか。『各論』の改訂はまだしばらく待たなければならないらしい。この点からも、本書を教科書としては勧めるのははばかられる。(2017/04/17追記:2017年1月に改訂された)
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