臨床につながる解剖学イラストレイテッド
『臨床につながる解剖学イラストレイテッド』は、『イラスト解剖学』と同じ著者による解剖学の参考書。
解剖学を臨床医学から意味づけて学べるように企画された。著者の授業からテーマを選んで本にしたという。著者は臨床家ではないが、放射線科医の協力を受けて、臨床医学の妥当性が担保されている。
臨床医からみると、解剖学は基礎医学の中でも最重要の科目だ(「学生時代の基礎医学のなかで、もっとも役立った科目は何ですか」参照)。
しかし、解剖実習と格闘している最中に学生がそれを実感するのは難しい。実際、授業後にアンケートで授業の感想をたずねると、「臨床と関連する事柄まで求めるのはやめて、ピュアな解剖学だけにしてくれ」との意見(というか叫び)も散見する。
でもそれって、つまらない。ピュアな解剖学なんて、素振りみたいなもんだ。習い事はなんでもそうだけれど、楽しくなるのはその先なんである。そして、先の楽しいことをのぞいてからでも素振りはできる。というか、素振りはずっとしないといけないんである。
本書は、解剖学を勉強しながら臨床での有用性が伝わるよう企画されている。医師国家試験にも頻出する病態が解剖学の視点で説明される。
本の構造はこうだ:
- 第1章:解剖学の総論:方向・面、発生、組織、骨格、感覚器、筋、関節
- 第2〜9章:系統別の各論
- 概論(○○解剖の全体像)
- 疾患・病態の解剖学からの裏付け(△△から探る□□)
第1章と続く各章の「全体像」の部分だけを読めば、普通の系統解剖学の簡単な教科書になる。
『イラスト解剖学』の図は筆者自身の描いたイラストだが、本書のイラストはイラストレーターの描いた普通のイラストだ。味わいは薄れるかも知れないが、無駄がなく可読性は高い。また怪しい手書き文字がないのもよい。
第2〜9章の冒頭で各論の概説がある。解剖生理学の教科書にあるような内容がかいつまんである。
続いて、「○○から探る△△」で、解剖学を臨床医学に結びつけようとしている。
「概論」とか「総論」を読んだだけでは、事の軽重は身につかない。用語の一部が太字になっていたとしても、それがなぜ重要なのかわからなければ、理解できたとは言えない。こまごましてややこしい面倒な話しはスキップされがちだ。解剖学はとくにそういう「こまごましてややこしい面倒な話し」が多いんである。ところが、そういうことが実用から見れば重要だったりする。
勉強をするときに過去問を先にみてから教科書をよんだりすることがあるだろう。どうように、臨床をチェックしてから解剖学を学んだ方が効率的でよく身につくものだ。
疾患や病態から解剖学をふり返るとよいというのは、そういうことだ。
たとえば、冠動脈。教科書に冠動脈の枝の図があっても、たいていの人は「ふうん」と思うだけでスルーする。左右の出元が大動脈弁のうえの膨らんだところにあるとか、拡張期に血液が流れるとか、各枝の栄養領域とか、虚血で不整脈になるのはなんでだとかまで、解剖図から思い描くことは終にあるまいよ。
それなら、冠疾患をさきに覗いたほうがいい。そのあとに解剖学のテキストをみたら、ちゃんと書いてあったじゃないかと気づく。
そういうことを、本書の一冊で済ませられる。
まあ、講義ではなく成書となれば、それなりに情報量が多いので、流し読みから始めるのでいいと思われる。
更新履歴:
- 2022/1/12 写真と文章を差し替え
- 2014/12/16 最初の投稿
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