Grant’s Dissector, 16e

『グラント解剖学実習』の原著が改訂され、第16版になった。本書は改訂ごとに少しずつ改善されている。原著第14版をもとにしている日本語版との差が目立ってきた。

この改訂では筆者が交代された。しかし全体の構成は従来を踏襲している。実習を漫然と進めることがないような工夫も同じだ。

身体の大きな部位(胸部・腹部など)ごとに章が分かれ、1時間くらいの作業(心臓の外面を解剖するなど)ごとに節に区切られている。

各節の最初には「Dissection Overview」があり、その節で学ぶ内容と目標が文章で提示される。つづく「Dissection Instruction」は、作業がステップごとに箇条書きで記され、それを順にこなせばよいようになっている。臨床で問題になることが多い部位では「Clinical Correlation」という囲み記事があり、作業を意義づけている。各節の最後にある「Dissection Follow-up」では、その節の作業の片付けと、学んだことの復習が箇条書きで示される。

図が多く、文章の理解を助けていて、予習や作業をしやすい。それでも図は足らなくなるものだが、よく使われるアトラスへの参照(図の番号やページで示される)があって便利だ。

今回の改訂で顕著なのは、図の改善だ。もともと図は『Grant’s Atlas of Anatomy』から多く引用されていた。一部稚拙なスケッチも紛れていた。原著第13版からこれら既存の図のレタッチやトレースが進められ、不要の図が省かれ、新規の図が追加されてきた。この第16版ではそれがほぼ完了し、図のほとんどがコンピュータグラフィックスのスッキリとしたタッチになり、統一感が増した。同時に改訂された『Grant’s Atlas of Anatomy』とも合っている。

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背部の筋の図が追加された。まだ手技になれない時期なので、作業を誤ることが減るだろう。
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心臓の血管の図。立体感のあるイラストに改められた。重ねられている下にあるのが日本語版(原著第14版)、上にあるのが第16版(他の写真も同じ)。
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腹部の体表解剖の図。稚拙なスケッチから改められた。
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網嚢孔の図。小網が省略されていて意味不明な図だったが、透明感のある小網の描かれている図に改められた。
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会陰の血管と神経の図。枝が追加された。
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『グラント解剖学アトラス』初版のイラストを継承している図もある。モノクロの原図に彩色が丁寧に施され、現代的なタッチ。

解剖手技も改善されている。解剖を深くまで進めるときに、左右一方だけを進めるようにした部位が増やされた。剖出がうまくいかなかったときのバックアップになるし、作業量も削減できる。開胸や頭部の解剖などの手技も改善された。

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頬部の解剖手順。右側だけで作業し、左側は復習のために残すよう指示されるようになった。作業手順も多く変更された。
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開胸。切断線が広くとられ、視野を確保しやすくなった。

実習手技の説明「Dissection Instructions」に少し混じっていた「学問的な」内容が仕分けされて手技のパートから掃き出され、作業をしやすくなった。これまで手技がわかりにくかった部分は、文章や図が改善・追加されて、わかりやすくなった。

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筋の表が追加された。

アトラスの参照は、参照先の改訂に合わせて更新されている。また『McMinn’s Clinical Atlas of Human Anatomy』が省かれ、『Lippincott Williams & Wilkins Atlas of Anatomy』が加わった。このアトラスの筆者は、第15版までの『Grant’s Dissector』の筆者と同じで、第16版の図の多くがこのアトラスから採られている。

本書は世界的にもよく使われる実習書だ。継続的に改定され改善が進んでいて好ましい。一方で、日本の医学部では古い実習書が使われ続けることも少なくないようだ。独自に用意した手順書が使われることもある。解剖実習もコモディティ化したらよいのではないか。その点で、原著第14版を元にしている現在の日本語版は古さが目立つようになった。日本語版にだけある誤植も少なくない。改定が望まれる。