人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版 第3版

評判のよかった解剖生理学の本が5年ぶりに改訂された。陳旧化していた内容が改められ、電子書籍が付属するようになった。

米国では解剖生理学が大学の教養課程や医学進学課程で教えられるので、立派な教科書が多い。しかし日本では看護科などでしか解剖生理学は教えられない。そのせいか、日本制作で米国の教科書に匹敵するのは、本書くらいだ(価格も米国並みだが)。この第3版では執筆陣が更新され、古くなっていた内容が改められた。

執筆者たち

解剖学(発生学も含む)、組織学、生理学とがまとまっていて、人体の器官系や組織ごとに構成されている。見開きごとにテーマ分けされている。模式図、光顕像、電顕像、グラフなどが多用され、ビジュアルにそのテーマを一望できるようになっている。

文章は概ね明快だ。言及される項目は専門科目で学ぶようなレベルまである。説明が要約的になることはあるけれども(個々の科目の教科書と比較すれば)、人体に対する好奇心を満たしてくれ、読んで楽しめる。

全体が系統別になっているので、局所に沿って進行する解剖学実習の予習や試験対策には不向きだ。教養課程のうちに本書を自習してなじみになっておくと、あとが楽になるだろう。また、科目によっては、授業の配布物だけで済まそうというようなときに(お勧めしないが)、本書が個々の教科書の代用になるかもしれない。

一つのテーマを見開きで一望できる

アップデートされてよかったのが免疫系だ。サプレッサーT細はなくなり、樹状細胞が入った。初学者でも安心して読める。

サプレッサーT細胞はなくなり、レギュラトリーT細胞になった
樹状細胞が記載された

ところどころに「基礎知識」という記事がある。なにがどう「基礎」なのかわからないが、少し詳しいこと、細胞生物学的で本書の範疇を超えること、数式を多数要すること、などらしい。これらが基礎だから知っておかないと、とは思わなくてもよさそうだ。

基礎知識の細胞生物学
基礎知識の数式

臨床医学との関わりはあまりなく、病態まで言及されることは少ない。自律神経系の説明に臓性感覚が含まれているが、定義上自律神経系の遠心性だけを含む教科書が多いように思われる。

図が多く、ビジュアルに理解できることは本書の特徴だ。ただし、解剖図に関しては、他書に取材したらしいものが多く、実際の標本をもとに描いてはいないようだ。旧い図譜の図を元にしたのもある。例えば、418ページの「陰茎、陰嚢、精巣」の図は、1900年代のSobottaの図に似ている(左右が反転されている)。鼠径部の構造への理解は臨床医学の進歩によってずっと精巧になっているから、これをみて鼠径ヘルニアの手術をしてはいけない。

電子書籍が付属するようになったのもこの版の大きな変更だ。冊子体が大きくて重いので、電子版を使えるのはありがたい。

冊子の裏表紙の側の見返しの前に、コードが書かれた紙片が綴じ込められている。本書専用のアプリ(無料)をダウンロードし、共通のQRコードを読み込み、シリアル番号(紙片ごとに別途印刷されている)を手入力すると認証が完了し、書籍のデータをダウンロードできるようになる。

QRコードとシリアル番号が付属している

この電子版にはいくつか欠点がある。まず、ページが文字も画像もすべてビットマップになっていること。しかも解像度が低くてピクセルが目立ち、文字が読みにくい。iPadを横位置にすると見開き2ページ表示になるが、粗いピクセルが縮小でより粗くなる。マーカーを引くなどのアノテーションはできない。また、検索は機能しないらしく、語句がページ上でみえていても、それを検索するとみつからないとの結果になる。

加えて、一度に認証できるデバイスは1つだけ。他のデバイスで読むには、いったん認証を解除しなければならない。認証されたデバイスでないと認証解除できなそうなので、認証解除前にアプリを削除したり、デバイスをリセットすると、再認証で困ることになるのだろう。

電子書籍は粗いピクセルで読みにくい(クリックで画像を表示)