新組織学 第7版(Qシリーズ)

新組織学 (Qシリーズ)

新組織学 (Qシリーズ)

野上 晴雄, 藤原 研
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「Qシリーズ」は、医学系のコンパクトなテキスト群で、そのなかの組織学のテキストの改訂版。挿図に顕微鏡写真が加わったことと、電子版が付属することが、この改訂のトピックだ。

Qシリーズの特徴はコンパクトなことと、挿図がすべてイラストであること。組織学のも前版まではそうだった。しかしそれでは、重要な一点で困る。

組織学を学ぶときに定められるアウトカムは、「組織標本なり病理標本なりを自分で光学顕微鏡を使って検鏡して読み取れるようになること」。細胞がどうとか、上皮がどうとか、機能がどうなっているとか、そういうのは、文章説明とイラストで理解できる。しかし顕微鏡を覗いて何があるかを認識できるかどうかは、また別の話。そこはやはり、顕微鏡実習で数をこなして練習するしかない。

前版のまえがきでは、著者は「実習頑張って」としか言えなかったが、顕微鏡写真が入った新版では、「顕微鏡の傍らにこの本を置いて観察を繰り返そう」と言っている。Qシリーズの変なシバリを突破できて良かった。

 

観察を繰り返そう

 

顕微鏡写真が加わっても、全体のページ数の増加は16ページだけで、依然としてコンパクトだ。文字の部分の密度は変わらず、イラストを少し小さくして対応しているようだ。

コンパクトながら、本の構成は一般的な組織学のテキストと同様。全体が総論と各論に分かれ(ページ数の比率でいうとおよそ3:7)、組織学全体をカバーしている。

各論でもっとも分量の多い消化器系の章を例にすると、30ページほどが18の「Q」、すなわち小テーマに分かれている。見出しのすぐ下にその部分の要点が2、3まとまっている。それぞれの「Q」は独立していて、そのときどきで必要な部分を学べる。

つまり、実習中に顕微鏡の傍らに置いて参照するのに都合良い。

イラストはクリーンでみやすい。立体図も使われる。新しいイラストもいくつか加わっている。顕微鏡写真が使われ、より具体的に理解できるようにもなった。

顕微鏡写真から構造を読み取るのが難しいときには、イラストが併置され、構造を対比できるようにもなっている。

顕微鏡写真は、いずれもホワイトバランスが丁寧にとられていて、H&Eの染色性を安心して覚えることができる。

 

立体図

 

顕微鏡写真が使われるようになった

 

イラストと顕微鏡写真を対比できる

 

文章部分も各所がブラッシュアップされているようだ。情報もアップデートされた。例えば、T細胞の分類から「ヘルパーT細胞」が制御性T細胞に差し替えられた。

ハッサル小体の意義は本書では前版に続いて「不明」になっている。2005年にハッサル小体の機能解明の一報があったが、それに続く報告がない。時期尚早との判断だろう。

  • Watanabe, N. et al. Hassall’s corpuscles instruct dendritic cells to induce CD4+CD25+ regulatory T cells in human thymus. Nature 436, 1181–1185 (2005).

 

胸腺の機能

 

巻末の小さな綴じ込みを開くと、シリアルコードがある。日本医事新報社のサイトでユーザー登録してシリアルコードを入力すると、電子版を読めるようになる。

電子版はオンラインだけで閲覧するようになっていて、ダウンロードしてオフラインでみるようにはできない。これは少々残念ではある。

もしiPadなどの端末で電子版を勉強するのが主な使い方になるようなら、最初から電子書籍を購入した方がよいかもしれない。医学書関係の電子書籍サービスで読める。

 

綴じ込み

 

電子版

 

掲載されている顕微鏡写真について、明視野の背景がすこし墨っぽく、明部の発色が濁ってしまっている。実習用の顕微鏡で観察すると実際そんな見え方で、リアリティーがあるともいえる。バックグラウンドを明るくしたら紙面上でより見やすく、印象色(真の色ではなく、記憶の中で美化された色)に近くなるかもしれない。

もし背景画像があったら、ダメダメな画像もPhotoshopの画像減算を使って下の例のような感じに改善できる。

 

顕微鏡に緑色の光学フィルターを入れて故意にカラーバランスを崩し、フィルター枠を入れて照明ムラも作った。その状態で骨格筋のスライドを撮影し(左)、そのままスライドをずらして背景も撮影し(中)、Photoshopで減算処理した(右)