Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎

注意!虫の苦手なヒトはこの先↓は見ないでください

表紙買いの一冊。甲府市の書店の企画展示のツイートでみかけた。医学出版社各社の営業担当者のイチ押しを集めた展示の棚の中央付近で異彩を放っていた。

 

 

本学はグンマーにあるので、虫と出会うことが少なくない。痛がゆいとおもったらいつのまにか皮膚が赤く腫れて、よく見ると中心に赤い点をみつけたりするが、虫刺されなのか毛嚢炎か何かなのか、区別できなかったりする。ツツガムシはもう聞かないが、マダニ注意の掲示を碓氷峠の旧道で見かけてアヴリル・ラヴィーンを思い出したことはある。夏になるとブロック塀にワラワラいる赤いちっこい虫は何だろう? 老健に行ったときに「カイセン」だといってキンチョールを部屋に吹きかけていたのも見た…

上製本である。無線綴じの解剖の教科書のように本棚でグニャッと崩れないのがいい。表紙とカバーのデザインが同じなので、カバーが傷んだら捨てればよい。図書館のヒトも悩まずに済む(本学の図書館はカバーのデザインを尊重していて、カバーにもフィルムルックスを貼っている)。

 

上製本

 

筆者の夏秋なつあき氏は、虫少年で皮膚科医だ。写真はすべて筆者が撮影したという。マクロ撮影には特別な技術と機材が必要だが、いずれも美しい。写真のクオリティーに関する筆者の審美眼が高いに違いない。

 

虫少年だった

 

全体が4つの章に分かれている。

  • 1章 総論(「虫」とは何か;虫による皮膚炎の発症機序 ほか)
  • 2章 虫の生息地(人家周辺;市街地 ほか)
  • 3章 皮膚炎をおこす虫と虫による皮膚炎(刺咬によって皮膚炎をおこす虫;吸血によって皮膚炎をおこす虫 ほか)
  • 4章 人に害を及ぼさない虫/虫による皮膚炎と鑑別すべき皮膚疾患(人に害を及ぼさない虫;虫による皮膚炎と鑑別すべき皮膚疾患)

総論は「虫」の定義に始まる。本書では「虫」を節足動物に限定している。ヒトへの障害の様式によって、これを刺咬性、吸血性、接触性の3つに分類する。虫による皮膚炎の表が便利そうだ。

 

皮膚炎をおこす虫の分類

 

皮膚炎を起こす虫の表

 

2章の虫の生息地だ。筆者自身が全国を這い回ったはずと考えると、写真に迫力がある。風景写真としてみるなら美しくないが、その場の環境がよくみてとれる。これが「記録写真」というものだろう。

 

虫の生息地

 

3章が虫による皮膚炎の各論になる。虫とその生態の写真が美しい。実際の症例の写真があるが、筆者自身が症例になっていることも多い。足らないとなれば自身を虫に刺させたりしている。組織標本の写真もあるが、自分を生検したのだろうか。淋病患者の膿を自分に接種した解剖学者ジョン・ハンターを連想した。

 

筆者自身が症例

 

筆者自身を虫に刺させた

 

筆者自身が症例

 

筆者自身にカメムシをくっつけた

 

ところどころにコラムがあり、詳細がまとまっていたり、誤解を正していたりする。

 

コラム

 

第4章は、皮膚炎を起こさない虫の鑑別と、虫による皮膚炎とそうでない皮膚炎の鑑別。ただしい診断を得るのに重要だ。

 

害にならない虫

 

虫による皮膚炎の鑑別

 

あとがきが虫少年らしい。虫少年は、生物界を俯瞰する視点を持てるものだ。

 

あとがき