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サージカルマスク

解剖学実習では、感染防御策のひとつとして「サージカルマスク」の装着が求められる。

その主な目的は、装着者からの飛沫拡散を防ぐこと。装着者自身の感染を防ぐ効果もサージカルマスクなら期待できる。

詳しくいうと:

  • 不織布3層構造でプリーツの入った使い捨てマスク
  • 布製マスク、ウレタンマスクは非推奨
  • N95までは要求されない
  • フェイスシールドは眼の保護を目的にサージカルマスクと合わせて使われる。フェイスシールド単独では感染防御の役には立たない
  • マウスシールドには飛沫を防ぐ効果がほとんどなく、感染防御の役には立たない

 

 

布製マスクに関しては、ヘルスケアワーカー自身の呼吸器系感染症を防ぐには逆効果とのランダム化試験の結果が報告されている。

  • MacIntyre, C. R., Seale, H., Dung, T. C., Hien, N. T., Nga, P. T., Chughtai, A. A., et al. (2015). A cluster randomised trial of cloth masks compared with medical masks in healthcare workers. BMJ Open, 5(4), e006577–e006577. http://doi.org/10.1136/bmjopen-2014-006577

サージカルマスク

サージカルマスクは、もともとは、手術を行う医師、看護師などが着用するもので、患者由来の飛沫から術者を保護し、同時に術者の口や鼻からの飛沫を防ぐために着用される。頭の後ろでストラップを結んで使う。

一般に市販されている使い捨ての「サージカルマスク」は、手術用のサージカルマスクを参考に作られたもので、ストラップに伸縮性があり耳に掛けてつかう。医療現場でも、手術室以外ではこういうのを使う。

 

手術中の医師たち

 

日本ではサージカルマスクの技術基準が定められてないけれども、米国のASTM(米国試験材料協会)の分類が参照されている。

医療用マスクの素材条件(ASTM F2100-19)
特性 レベル1 レベル2 レベル3
細菌濾過率(%) ≧95 ≧98 ≧98
微粒子濾過率(%) ≧95 ≧98 ≧98
呼気抵抗(㎜H2O/㎝2) <5.0 <6.0 <6.0
血液不浸透性(㎜Hg) 80 120 160
延燃性 Class1 Class1 Class1

 

 

日本衛生材料工業連合会がマスクの自主基準を定めていて、一定の技術基準を満たしたものに全国マスク工業会のマークが表示されている。

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日本衛生材料工業連合会 より

 

3層の不織布のうち、表面の層には撥水性があり、飛沫の浸透を防ぐ役割がある。青や緑で着色されているのは、術野の赤い色との補色にするため。中間の層にはメルトブロー不織布という微細な編み目のフィルターが使われ、マスクの濾過性能を決めている。裏面の層は吸水性で、装着感を決める。

つまり、サージカルマスクには表裏がある。逆に装着すると、飛沫がマスク内に浸透する、息で結露しマスクが濡れ通気性が低下する、など、性能が低下する。

  • ノーズワイヤを上に向ける
  • 青い色のマスクなら、青い方が表
  • プリーツがすべて同じ向きなら、プリーツが下を向く方が表
  • ボックスプリーツなら、上のプリーツが上、下のプリーツが下に向く方が表
  • 製品名などが記されていたら、文字の読める方が表
  • ストラップの取り付け面がどちらにあるかは製品による

 

素材自体には濾過効果がありながら、装着者の感染防御の効果が低いのはなぜか。それは、形状による。鼻、あご、頬などに隙間が大きく、粒子がそこから入り込んでしまうため。ピッタリのサイズのを使い、鼻のまわりのフィットを注意深く調整すれば、防御効果は上がる。

N95マスク

N95マスク(正しくは「N95レスピレーター」)は、労働者を空気中の粉塵・油滴・微粒子から守るために装着するもので、米国NIOSH(アメリカ合衆国労働安全衛生研究所)で規格が定められている。もともとは労働安全のための防護具だが、感染防御にも効果があったことから、医療向けにも使われるようになった。サージカルマスクと異なり、顔面にピッタリとフィットするような形状になっている。ノーズバーがアルミ製で、顔の形に沿うように調整しやすい。ヨーロッパ製の製品には日本人の顔に合いにくいのがあるらしい。

 

個人防護具を着用するヘルスケアワーカー Wikimedia

 

新型コロナウイルスの感染防御策では、感染確認のあるなしにかかわらず、飛沫発生手技(気管内挿管など)のときに、他の防御具に合わせて使用される。

 

呼吸器防護規格(NIOSH)
クラス 捕集効率(%) テスト粒子
N Not resistant to oil
耐油性なし
N95 95 エアロゾル化した
塩化ナトリウム
N99 99
N100 99.97
R Resistant to oil
耐油性あり
R95 95 エアロゾル化した
フタル酸ジオクチル
R99 99
R100 99.97
P Oil Proof
防油性あり
P95 95 エアロゾル化した
フタル酸ジオクチル
P99 99
P100 99.97

 

米国3M社の製品が広く使われていたが、現在は入手困難。国内の製造業者は数社ある。日本のN95相当のDL2、中国のN95相当のKN95のマスクが代用される。ただし、KN95のマスクについては基準を満たさない製品が流通しているとの報告があり、CDCは医療機関での感染防御用には推奨していない。

 

日本の国家検定区分
区分 粒子捕集効(%) 吸気抵抗(Pa) 排気抵抗(Pa)
DOP
液体
NaCl
固体
排気弁 排気弁
あり なし あり なし
DL3 DS3 99.9 150 100 80 100
DL2 DS2 95.0 70 50 70 50
DL1 DS1 80.0 60 45 60 45

DOP:フタル酸ジオクチル NaCl:塩化ナトリウム

 

N95マスクを使用するときには、顔面とマスクとの間に隙間がないか、米国OSHAの定めるフィットテストユーザーシールチェックと呼ばれる試験が求められる。きちんと装着すると実習室のにおいもかなり防げる。ただし息苦しく長時間の装用はきびしい。

普通のマスクと変わらない気がしたら、隙間があると考えられる。隙間があればふつうのマスクと効果は変わらないので、フィットさせないまま使うのは医療資源のムダでしかない。着脱にも訓練を要する。また、逆止弁付きのN95は、装着者からの飛沫防止の効果は布マスクほどなので、感染制御には無意味。

韓国食品医薬品安全処の規定するKF94もN95に相当する。ただし実際にAmazonなどで販売されている製品では、ストラップが耳に掛けるようになっていて顔への圧着が不足するなど、デザイン上リークが大きいのが大半だ。感染防御のN95並の期待をしないよう、注意されたい。

活性炭入りマスク

ホルマリンに対する過敏症がある場合、活性炭入りマスクを装用すると刺激を低減できる。ただし感染防御の性能に活性炭が寄与するわけではなく、もとの構造に依存する。例えば、活性炭入りDS1の場合、液体飛沫は浸透してしまうし粒子捕捉率も低いので、上からサージカルマスクを装用するなどしたほうがよいかもしれない。

 

参考

サラヤ|マスクの規格基準