グラント解剖学実習 改訂版

本学医学部医学科の解剖学実習で使われている『グラント解剖学実習』が改訂された。前版(日本語版の初版)の原著が第14版で、この『グラント 解剖学実習 改訂版』は原著第16版の翻訳になる。この間、原著の編者が交代し、内容が大きく改められた。日本語版の監訳者・訳者も交代した。

現状では、誤植、誤訳、意味の通らない文が散見される。学習時に注意されたい。

原著『Grant’s Dissector』は1940年から続く解剖学実習書で、実習書としては世界的に最も広く使われている。解剖学の他の教科書やアトラスも、これと一緒に使いやすいように章立てされているほどだ。診療の分野ではコモディティ化が進み、診断基準が制定され、標準治療(*)が行われ、エビデンスが蓄積されている。解剖学実習でも、標準に倣って最善の学習経験になることが期待できよう。

(*) 科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療(国立がん研究センター

本書は、各部位ごとに次のように構成されている:

  1. 解剖の概要:各部位で学ぶべきことが箇条書きで数件示される
  2. 解剖の手順:解剖の手順が、ステップごとに順を追って箇条書きで説明される。各部位のステップ数は、10〜20ステップが多い
  3. 復習:各部位で復習すべきことが箇条書きで数件示される

箇条書きはいずれも短文で説明にムダがなく、効率的に解剖を進められる。解剖の手順はよく設計されていて、ステップごとに集中してこなしていけば、概ね大過ない。

随所に臨床との関連事項があり、学習を印象づけてくれる。ほとんどは臨床でも常識的なことがらで、解剖実習の機会に実地に確認しておきたい。

日本で一般的な解剖手技とは少し異なるところもある。日本では剖出にピンセットが使われるけれども、本書の手法では、プローブやハサミを使うことが多い。外科手術でも鈍的剥離にハサミを使うことが少なくないので、習得しておくと将来役に立つだろう。

臨床との関連

今回の改訂の主点はつぎのようなものだ。

  • 図版の改善
  • 筋の表の追加
  • 説明文、手技の改善
  • 図譜への参照のアップデート

図版のほとんどが改善され、その数は100以上になったという。新しい図も多く付け加わった。実際、多くのイラストが立体的になり、迫力が増した。

内容の増加のために日本語版はページ数が40ページ増えた。紙質が薄くなって、本の大きさや厚さが旧版と同じに保たれている。価格も同じだ。

立体的に描かれたイラスト

心臓の血管のイラストは新作と置き換えられ、有用性が増した。左の図が前版、右の4つの図が改訂版

会陰部の動脈・神経の足らなかった枝が描き足された。上の図が改訂版、下が前版

解剖の手順の一部が改善された。開胸時の切断線が下方に広がり、視野を大きく取れるようになった。腹部では腹壁の切断線が2通り用意され、よりよく観察したい物に応じて選択できるようになった。頭頸部では左右いずれかで解剖を進めるようになり、復習をしやすくなった。

胸壁の切断線の変更。左が改訂版、右が旧版

2通り用意された、腹壁の切断線

「解剖の手順」のなかでは、本書の図の他にも、代表的な他のアトラスの図へも参照が記されている。今回の改訂では現在の最新版の図譜と合うようになった。これに使われているのは下の2つ:

原著では他に2点のアトラス、『Grant’s Atlas of Anatomy』と『Lippincott Williams & Wilkins Atlas of Anatomy』への参照もあるが、日本語版で省かれたのは(特に同じ「グラント」のシリーズがないのは)残念だ。いずれも該当する日本語版がないからという理由だった。しかし、『Grant’s Atlas of Anatomy』については、1つ前の版の翻訳ではあっても『グラント解剖学図譜 第7版』の相同の図を参照できたはずだし、『Lippincott Williams & Wilkins Atlas of Anatomy』はメディカルサイエンスインターナショナルから日本語版がでている。いずれにしても参照先の改訂があれば参照が切れてしまうので、刷りが改まるときにアップデートしていってほしいところだ。

原著では、電子版も販売されている。本学の医学生にもiPadの使用者が増えている。日本語版でも電子版を使えるようになれば、実際の実習でも役立つはずだ。実習室用にもう一冊、というムダがなくなる。