WEEK6 Day1 胸壁・肺・縦隔
木曜日は終日、胸部の解剖実習です。
胸壁を観察し、胸腔を開いて、胸膜腔・肺・心臓・縦隔を学びます。また、CT画像と実際の解剖所見を対応させます。
胸部では、1人しか作業できない場面が多くなります。適宜役割を分担し、剖出した構造を互いに見せ合いながら、効率よく進めてください。
1. 実習書に書いてある通りに進めよう!
『グラント解剖学実習』は、解剖の手順が綿密に計画・検討された実習書です(誤植は別として)。自己流で進めて迷子になるよりも、実習書に沿って進めた方が、結果的に早く、確実に解剖できます。
例えば、胸壁を開く際の肋骨弓に沿った切離線です。
- 位置が高すぎると、胸腔内の視野が狭くなります。
- 位置が低すぎると、横隔膜や腹部臓器を損傷するおそれがあります。
指定された位置と、その理由を確認してから作業してください。
構造を同定してから次に進むことが、結果的には一番の近道です。
2. CTチェックリスト
胸部の解剖実習中に、以下の資料を確認してください。
- 死亡診断書
- 死亡時画像検査結果通知書(禁帯出)
これらを参考にCTチェックリストを記入し、胸部解剖実習の最終日(11月12日・木曜日)までに完成させ、提出してください。
本日、CT画像自体を確認する必要はありません。 ただし、来週中にはCT画像を一度開き、胸部の構造がどのように写っているか、大まかに確認しておいてください。
CT画像の詳しい見方については、再来週の11月19日(木曜日)の授業で、3コマ連続して説明します。
チェックリストはスキャン後に返却します。解剖中はCT課題を意識し、実際に確認した構造や所見を記録しておいてください。
※死亡診断書・死亡時画像検査結果通知書は、指定された場所で閲覧し、持ち出さないでください。
3. CT課題に備えて
気胸・胸水の確認
胸腔を開くと、開胸前の気胸や胸水の状態を直接確認できなくなります。
- 死亡時画像検査結果通知書で、気胸・胸水の有無を確認する。
- 胸水が認められる場合は、胸腔を開く際に失われないよう注意する。
- 胸水を確認できた場合は、可能な範囲で回収・計量し、重量(g)と性状を記録する。
- 計量には、容器の重量(風袋)を差し引く。
胸水の色調、透明度、粘稠度なども観察してください。
心臓の大きさ
-
CTで確認できる心臓の大きさや位置を、実際の解剖体と比較してください。
なお、心胸郭比50%未満という一般的な基準は、胸部X線写真(PA像)に対するものです。CTや解剖体の計測に、そのまま適用できるわけではありません。
4. CT課題ではなにをする?
CTで見えた構造を解剖体と比較し、CT画像と解剖スケッチを対応づけることが目的です。
- 死亡時画像検査結果通知書を参考に、自分でもCT画像を観察し、気づいた点をまとめる。
- 実際の解剖体を観察し、CT画像との対応を確認する。
- 読影を担当した放射線科医にとっても参考になるようなレポートにまとめる。
解剖学の課題なので、死因を探すことが目的ではありません。
目立った病変がなくても、正常な形態を丁寧に比較すれば、十分に意味のあるレポートになります。
例えば、「CTではこのように見えた肺内の気管支が、実際に剖出するとこのように走行していた」といった比較でも構いません。
5. 胸壁
ブリーフィング時に確認すること
① 胸骨角
胸骨角は、胸部の重要な解剖学的指標です。
胸骨角の高さにある構造を復習してください。
- 第2肋軟骨
- 大動脈弓の始まりと終わり
- 気管分岐部
- 肺動脈幹の分岐部付近
- 第4・第5胸椎間
※いずれも、おおよその位置関係です。
手袋を着用する前に、自分の胸骨角を触知し、第2肋骨を探してみましょう。
② 第5肋間・左鎖骨中線付近
自分の心尖拍動を触知してみましょう。触知できない場合もあります。
③ 解剖体の胸壁
- 肋骨を数え、肋間を同定する。
- 鎖骨中線、前腋窩線、中腋窩線、後腋窩線の位置を確認する。
肋間の層構造
外肋間筋・内肋間筋・最内肋間筋の筋線維の向きと分布範囲を確認する。
- 肋間神経・動脈・静脈が、どの筋層の間を通るか確認する。
- 肋間神経・動静脈が、肋間のどの高さを走行するか確認する。
- 肋間にプローブを通し、層構造を立体的に理解する。
胸壁を外す際の注意
- 肋骨の切断面は鋭利です。怪我をしないよう、配布する布や筋肉などで切断面を覆って保護してください。
- 内胸動脈の走行を確認し、前胸壁との位置関係を理解してください。
6. 使用する解剖器具について
肋骨・鎖骨を扱う際には、専用の器具を使用します。
- 肋骨:肋骨剪刀、骨剪刀など
- 鎖骨:板状鋸、キャストカッターなど
器具ごとに適した用途があります。使用方法と安全上の注意を確認し、安全に使用してください。

肋骨剪刀(夏目製作所)

骨剪刀(夏目製作所)

板状鋸(夏目製作所)
キャストカッター
鎖骨の切断にはキャストカッターを使ってもよい。ただし、注意がいろいろある
- 刃は振動しているので硬いものが切れる。軟らかいものは切れにくいが、切れないわけではない
- フェイスシールドで眼を保護する
- 電源スイッチがオフになっているのを確認してから、プラグを差す
- 刃を切るものに近づけ、刃を当てる前にスイッチをオン(1)
- 切り終わったら刃を離して、スイッチをオフ(0)
- 刃が完全に止まってから(慣性でしばらく動いている)、キャストカッターを置く
- 本体を濡らさない(防水ではない)。濡れると壊れるし、感電するかもしれない
- 使い終わったら刃を清拭して、すぐに返す
- 台数が限られるので、順番待ちするより板状鋸で切った方が早いかもしれない
7. 胸腔・胸膜腔
前胸壁を外したら、まず肺・心臓・縦隔の位置関係を原位置で観察してください。
胸膜腔
- 壁側胸膜と臓側胸膜を区別する。
- 外した前胸壁と胸腔内を見比べ、壁側胸膜がもともとどのようにつながっていたか想像する。
- 肋骨横隔膜洞などの胸膜洞、胸膜頂を確認する。
- 胸膜腔がどこまで広がっているか、立体的に理解する。
- 左右の胸膜腔が互いに独立していることを確認する。
胸膜腔は、通常、壁側胸膜と臓側胸膜の間に存在する潜在的な空間です。開胸後の状態と生体内の状態を混同しないようにしてください。
胸腔内の位置関係
- 肺・心臓・縦隔の位置関係を観察する。
- 前胸壁と対応させ、それぞれの構造が胸壁のどこに投影されるか確認する。
- 教科書の図と実際の解剖所見を比較する。
- 肺の大きさ、形、表面の性状などを観察する。
内胸動脈
次の血管のつながりを理解してください。
鎖骨下動脈 → 内胸動脈 → 上腹壁動脈 ⇄ 下腹壁動脈 ← 外腸骨動脈
内胸動脈は上腹壁動脈へと続き、外腸骨動脈から分岐する下腹壁動脈と吻合しています。
胸部と腹部の血管がどのようにつながるか、腹壁の解剖でも確認しましょう。
8. 肺門・肺根・肺間膜
肺を取り出す前に、肺門・肺根・肺間膜をよく観察してください。
取り出してしまうと、胸腔内での本来の位置関係が分かりにくくなります。
観察すること
- 肺門・肺根・肺間膜の違いを説明できるようにする。
- 肺動脈、肺静脈、主気管支をそれぞれ同定する。
- 前後・上下の位置関係を確認する。
- 左右の肺門部の違いを説明できるようにする。
特に、次の点を確認してください。
- 右肺では肺動脈が主気管支の前方、左肺では肺動脈が主気管支の上方に位置する。
- 肺静脈は一般に肺門部の前方・下方に位置する。
- 肺門部では、気管支、肺動脈、上肺静脈、下肺静脈をそれぞれ同定する。気管支の分岐には左右差があるので注意する。
肺動脈・肺静脈は、切断後には同定が難しくなります。必ず切断前に、走行と連続性を確認してください。
血管の壁の厚さだけで、肺動脈と肺静脈を区別しないようにしてください。
その他の観察ポイント
-
- 肺門部付近の黒い構造は、気管気管支リンパ節などの可能性があります。同定してください。
- 肺炎が疑われる場合は、気管支内の異物や閉塞などの有無にも注意してください。
- 右肺と上大静脈、肺の後方と交感神経幹の位置関係を確認してください。
- 横隔神経と迷走神経は、肺根の前後どちらを通るでしょうか。
9. 区域気管支の剖出
主気管支から葉気管支、区域気管支へと続く分岐を観察します。
目標は、区域気管支を同定し、それぞれがどの肺区域(S1、S2、S3など)に対応するか説明できるようになることです。
- 主気管支・葉気管支・区域気管支を区別する。
- 肺葉と気管支の分岐を対応させる。
- 右肺と左肺で、分岐の違いを確認する。
- 区域気管支より末梢の剖出は、必要以上に進めない。
末梢まで剖出しすぎると、気管支の位置関係が崩れ、かえって同定しにくくなります。
ポンプで気管支に空気を送れば区域を同定できます。
腫瘍などの病変がある肺では、気管支の剖出よりも肺の断面観察を優先する場合があります。担当教員に相談してください。
作業分担
例えば4人班なら、以下のように分担できます。
- 右肺担当:1人
- 左肺担当:1人
- 縦隔担当:2人
作業が終わったら、自分が剖出した構造を他のメンバーにも説明してください。
10. 心膜・心膜横洞・心膜斜洞
心臓を取り出す前に、心膜と心膜腔の構造を十分に観察してください。
心膜の観察
- 線維性心膜、漿膜性心膜を区別する。
- 壁側板と臓側板の関係を理解する。
- 心膜腔の広がりを確認する。
心膜横洞・心膜斜洞
- 心膜横洞:上行大動脈・肺動脈幹の後方にある、左右に通じる空間。
- 心膜斜洞:左心房の後方にある、上方が盲端となる空間。
それぞれの位置を確認し、周囲の大血管との関係を説明できるようにしてください。
なぜ、このような空間が形成されるのでしょうか?
心膜の発生や漿膜性心膜の折り返しと関連づけて考えてみましょう。
心臓の取り出し
大血管の名称・走行・位置関係を、取り出す前に確認してください。
特に、心房や心膜を不要に損傷しないよう注意してください。
11. よくある質問 (FAQ)
Q. 胸膜腔にあるゼリー状のものは何ですか?
胸水成分が凝固したものなどが考えられます。ただし、外観だけで断定はできません。色調や性状、周囲の所見を観察してください。
12. 本日の予定
11:30頃~ 肺の見学ツアー(約30分)
各班の肺を順番に観察します。
リーダーとサブリーダーは、交代で説明担当をお願いします。
完全内臓逆位、胸部大動脈解離に伴う血胸、多量の胸水など、他の班の特徴的な所見も観察できる貴重な機会です。
ツアー終了後 昼休憩
13:00 集合・出席確認
14:00 心エコのミニレクチャー&デモ(総合診療科・循環器内科 吉田くに子先生)→ デモ協力者募集中!!(協力者がいないとデモが実施できません!)
13. 来週の予定
- 冠状動脈のスケッチとチェック
- 縦隔チェックリスト
14. 剖出チェックの前に
チェックを受ける前に、以下の準備をしてください。
- 剖出した構造の名称と機能を調べておく。
- 神経や血管については、起始・走行・分布先などのつながりを説明できるようにする。
- 解剖学名を正しく言えるようにする。
- プローブやピンセットなどで該当する構造を示し、代名詞ではなく解剖学名を使って説明する。
- 方向を説明するときは、解剖学的正位を基準とする。解剖台の向きを基準にしない。
これらが説明できない場合は、再度確認してもらうことになります。
準備ができてから、ホワイトボードに記入してください。
15. 剖出チェック
本日剖出した構造を実際に示しながら、簡潔に説明してください。
特に以下を確認します。
- 胸壁・肋間:外肋間筋・内肋間筋の走行、肋間動脈・静脈・神経の位置関係
- 前胸壁の内面:内胸動脈・静脈、胸横筋の走行と位置関係
- 胸膜:壁側胸膜・臓側胸膜、胸膜腔、胸膜洞
- 肺門・肺根:主気管支、肺動脈、肺静脈の位置関係
- 区域気管支:主気管支・葉気管支・区域気管支の分岐
- 心膜:線維性心膜、漿膜性心膜(壁側板・臓側板)、心膜腔
- 縦隔:主要な血管・神経の名称、走行と位置関係(横隔神経・迷走神経など)
区域気管支を示し、対応する肺区域の番号(S1~S10)を説明できるようにしてください(ポンプを使って確認)。
最後に
気管支、肺動脈、肺静脈などを、十分に同定しないまま処理してしまうと、後から位置関係を理解することが難しくなります。
小さな失敗が積み重なると、最終的に何が何だか分からないまま実習が終わってしまいます。
構造を一つずつ同定し、位置関係を確認してから次に進むことを習慣にしてください。
急いで進むことよりも、確実に理解しながら進むことを大切にしましょう。
