ヒト胃リパーゼ
『ピンチに備える解剖学』にある、脂質消化に関する胃のはたらきについて、少し補足してみよう。確認してみると、『コスタンゾ生理学』にはヒト胃リパーゼについて説明があるが、『ガイトン生理学』ほか多くのテキストで説明がないことがわかったので:
胃は腹部の消化管の最初にあって、大きく膨れた袋です。食べたものが胃に一旦溜まり、胃の蠕動運動によって砕かれます。胃の粘膜にある胃腺から、消化液が分泌されます。消化液には塩酸が含まれていて、微生物を殺し、食物の分解を早めます。また酵素によってタンパク質や脂質を分解します。(p.226 より)
脂質の分解は胃で始まる。
胃底部の胃腺はペプシンに加えてヒト胃リパーゼ(human gastric lipase; HGL)という消化酵素も分泌する。HGLはペプシンと同様に至適pHが酸性の酵素で、トリアシルグリセリドの10〜45%を分解するとされる(割合は文献により異なる)。膵リパーゼが働くには胆汁酸によるミセル化が必要だが、胃リパーゼはミセル化なしに働く。膵リパーゼの少ない新生児や、嚢胞性線維症などで膵外分泌機能が低下した症例では補完的に働く。
- Sassene, P. J. et al. Comparison of lipases for in vitro models of gastric digestion: lipolysis using two infant formulas as model substrates. Food Funct. 7, 3989–3998 (2016).
脂質が十二指腸に入ると、十二指腸からCCKが分泌され、胆汁と膵液の分泌を促すとともに、胃内容排出を遅らせる。これによって、十二指腸での消化に十分な時間を与えることができる。
また、舌側面の腺からは舌リパーゼが分泌され、これも酸性で働く。新生児の乳脂肪分解や口腔内の清浄化に関与する。
なお、健胃薬に含まれることのあるリパーゼAP6はコウジカビ由来の酸性リパーゼである。
消化吸収全体については、『コスタンゾ生理学』がわかりやすい。くわしくは「コスタンゾ」で。
