細胞の分子生物学 原著第7版

『細胞の分子生物学』の新版日本語版、「原著第7版」である。解剖学なら『グレイ解剖学』、生理学なら『ガイトン生理学』、神経科学なら『カンデル神経科学』、内科学なら『ハリソン内科学』というように、医学生物学にはいくつかベンチマークになる教科書がある。それらに並ぶひとつ。
原著が継続的に改訂されていること、日本語版も継続的に出版されていること、いずれもありがたい。初版から40年以上になるらしい。
『細胞の分子生物学 Molecular Biology of the Cell(MBoC)』は、1970年代にジェームズ・ワトソン(*)が「分子生物学と細胞生物学を統合した教科書をつくろう」と構想したのが発端という。1974年にキース・ロバーツへ手紙を送り、のちにブルース・アルバーツ、デニス・ブレイ、マーティン・ラッフらが集結した。著者らはロンドンのセント・ジョンズ・ウッドに借りた家で「合宿執筆」を繰り返し、章ごとに大規模な査読者ネットワークからフィードバックを受け、草稿を練り上げた。1983年の初版は「黒い表紙に蛍光像」で斬新な図版スタイルを打ち出した。
- Serpente, Norberto. 2013. “Beyond a Pedagogical Tool: 30 Years of Molecular Biology of the Cell.” Nature Reviews Molecular Cell Biology 14 (2): 120–25. https://doi.org/10.1038/nrm3513.
* 当のワトソンの著書『Molecular Biology of the Gene』は、著者が代替わりした2013年の第7版で改訂が止まった。いろいろあったらしい。
この『細胞の分子生物学 第7版』の謝辞には査読者や情報提供者の膨大なリストがある。

この日本語版は、ページ数にして1,568ページ、厚さにして53ミリ、図の点数は1,695ある。実験室の上皿てんびんでは重量オーバーだった。どうしろというのだ。本棚には自立できないので、スリーブに入っている。ふつうの折りたたみの書見台には収まらない。
スリーブに入れて本棚にしまったらもう読まないかも。ボックスファイルでちょうどいい背幅のがあればいいが。
むしろ、サイドテーブルにのせていつでも読むようにしていたら、いずれきっと賢くなっているはず。平らな面に見開きで置くと、紙面が平らに開くのがよい。持ち運ぶときにはトートバッグに入れるか、iPadがあったら電子版にしよう(医書.jp)。


序文はまず読んでおこう。
いまどき、ChatGPTにうまいことプロンプトを送れば、手早く要約を得られる:
プロンプト:細胞骨格について、分子生物学的に簡単に説明してください。200文字くらいで。
ChatGPT: 細胞骨格は、細胞内で形態を保ち、物質輸送や細胞分裂、運動を支えるタンパク質線維のネットワークです。アクチンフィラメントは細胞の形や移動を制御し、微小管は染色体分配や小胞輸送を担い、中間径フィラメントは機械的な強度を与えます。これらは分子モーターと協働し、細胞のダイナミックな機能を可能にします。
それでもテキストを読むのはどうしてか?
何かあったときにチカラになるのは、系統的に学んで得られるリテラシーなのだ。訳者らもその興奮を伝えている。
『ガイトン生理学』にも、『ギルバート発生生物学』にも、『小説みたいに楽しく読める解剖学講義』(笑)にも、だいたい同じことが書いてある。
細胞生物学の授業の限られた時間で効率的に成績を取らないとというときには、『Essential細胞生物学』でいい。でも図書館で「原典」のほうもよんでみよう。アップライトピアノだっていい音がでるけど、コンサートホールでフルサイズのグランドピアノを聴くのとはちがう。




細胞骨格の項目を見てみよう。ここはある程度安定的に知識がまとまってきているから。
グラフィックなまとめ「パネル」がいくつかあり、章の内容をそこで概観できる。本文にも写真や模式図がふんだんにある。電子顕微鏡写真など、チャンピオンデータが満載だ。



本書には、分子生物学の恩恵によって発展した分野もいくつか含まれる。がんの生物学、発生生物学、再生医療、免疫学だ。それぞれの領域の概観にもなっていて、勉強を始めるときに押さえておくのにいい。




『細胞の分子生物学』と『Essential細胞生物学』の裏表紙には、ビートルズのアルバムアートを模したアートワークが使われていた。筆者らが執筆のために合宿した家は、ビートルズの「Abbey Road」横断歩道からすぐ近くだった。これが著者らの遊び心に火をつけた。『細胞の分子生物学』第3版から著者らの群像をビートルズのアルバム風に仕立てた写真を裏表紙に掲載するようになった。
この第7版では、それが変更になった。ビートルズの文化が伝わりにくくなったのだろうか。筆者らのゲノムを模したものらしい。プライバシーの観点から実物ではない。やめるなら最後にホワイトアルバムで締めたらよかったのに(笑


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