國松の内科学

國松の内科学

國松の内科学

國松 淳和
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本書の著者は内科医、診断医。多くの著作や連載がある。

このような大きなボリュームの専門書で単著なのは少ない。基礎系なら、『ストライヤー生化学』、『ガイトン生理学』、初期の『Gray’s Anatomy』といったところ。いずれも、統一感があって著者の語り口が好ましい。本書も、著者(と編集者)の個性がモリモリだ。

表紙は書名が大きく配されている。「の」のところの多色刷りがずれているように見せていて、大正ロマンっぽいデザインだ。

本の天を見ると、裁ち落とされてなくてバラバラだ。「天アンカット」というらしい。岩波文庫や新潮文庫などに残るが、むかしは単行本にも少なくなかった。天アンカットは、実はコストが余計にかかる。しかもじょうせいほんではなくソフトカバーの無線綴じで、背表紙がやわらかく、読みやすい。こういうことをするのは、金原出版のよくしられた編集者だ。

いっそ袋とじに?

 

天が裁ち落とされてない

 

バラバラなせいで蔵書印が押せなかったと見える

 

裁ち落とされているほうは、蔵書印が見える

 

全体が総論と各論に分かれている。「序の章」「実の章」となっているのが、RPGのようだ。テクスチャーの深い浅葱色の用紙に燻し銀のインクで印刷された扉ではじまり、枯れ色の本文用紙に紫黒色のインクが使われている。

 

RPGのゲームブックのような扉

 

色の濃い用紙

 

本を愛でるには冊子体を買いたい。よむには電子版をiPadでもいい。電子版でも用紙の色が再現されている。

 

医書.jp版

 

各論は「実の章」。濃紺の扉、クリーム色の本文用紙、色インクの文字で、気分が変わる。用紙は若干、裏写りしがち。ここにもコストをかけるときっとアレなのかも。

本は厚いけれども、文字も大きくゆったりとレイアウトされている。図は少なく、写真はなくて、ポンチ絵のみ。文章のほとんどに、罫線かというくらい下線が引かれている。このあたりみな重要だからよく読め、ということだろう。

これがオーセンティックな内科学書なら、白度の高いコート紙に小さめのフォントで2段組みになり、カラー図版が満載で、2ないし6巻セット箱入りになっていただろう。参考文献には原著論文が多数並び、ガイドラインやエビデンスレベルや推奨度への参照があるはず。そういうのはそういうテキストがあるからそういうのを読むのだ。

よんでいると、他の専門医の態度に愚痴をいっていたりする。実務ではそういうのをいなすのも大切だ。

 

色違いの扉

 

解剖学にも関係のあるポイントを1つ見てみよう。虚血性大腸炎。

虚血性大腸炎は稀とする文献もあるけれども、毎年の解剖献体での頻度はおそらく1割はくだらないだろう。下腸間膜動脈の栄養域にそって結腸膨起が消失し細く狭窄している。稀に上腸間膜動脈の流域に部分的に狭窄をみることもあるが、たぶん末梢側で動脈狭窄だったのだろう。

そんなようすを解剖すると、動脈の流域や分水嶺をみてとれるので、教育的に有用でもある。もし生前のようすを聞く機会があったら多分、一過性の腹痛や血便、その後に慢性の便秘やイレウスがあったはずだ。臨床でみる経過かどんなものか、本書でみてみるのもよい。

 

クリーム色の用紙に色インク

 

冠動脈症候群や大動脈解離も解剖でしばしば出会う。生前の様子を思い描くのも良い。『グレイ解剖学』で学ぶ関連痛が実際の臨床でも役立っているのや、『ムーア人体発生学』で学ぶ先天性疾患が診断の最後のポイントになっているのもみてとれる。エーラス・ダンロス症候群は、『ナースは誰を愛してる?』のモチーフになっている。

 

冠動脈症候群の関連痛

 

大動脈解離

 

あとがきは山吹色の用紙に細いゴシックで小さくひかえめに。内容はそう控えめでもない。

 

あとがき

 

紙面写真の本記事への使用につき、金原出版様より許諾いただきました(2025年6月30日)