コスタンゾ明解生理学 原著第7版

コスタンゾ明解生理学 原著第7版

コスタンゾ明解生理学 原著第7版

リンダ・S・コスタンゾ
6,930円(12/18 15:52時点)
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『コスタンゾ』日本語版の改訂である。シックな色合いの美しい表紙だ。

日本語版のでたのが2007年、原著第3版のときだった。そのあとしばらく放置されていた。やっと原著第6版の日本語版が2019年にでて、判型が小さくなり、電子版が添付されるようになった。このあとスキップされずに原著第7版の日本語版がでた。

まとめ

  • 単著者による名講義を聴くようなテキスト
  • 明解な図がたくさんある
  • 定量的理解のための数式とその説明文がたくさんある
  • 神経科学、脳科学のはなしは、他書へ
  • 付属の日本語電子版はオンラインだけ(ダウンロード不可)で、4年間の期限付き

英米で生理学のテキストといえば、『Guyton and Hall Textbook of Physiology』『Costanzo Physiology』が最も売れている2冊だ。ここに試験対策のまとめの本『BRS Physiology』が加わる。本書はその『Costanzo Physiology』の日本語版である。

『ガイトン』もそうだったけれども、『コスタンゾ』の特徴は、単著であること。名講義を聴くような調子で、本全体に統一感があり、心地よく学べる。本書のように詳しさや新しさよりもわかりやすさに重点の置かれるテキストでは、この統一感が好ましい。加えて、コスタンゾの図はわかりやすく美しく、ページをめくるのが楽しい。

そして、安い。『ガイトン』や『標準生理学』の半分くらい。

一方で、注意点もある。まず、記載された内容に典拠が示されず、参考文献のリストもない。また、著者個人のスティグマもなくはない。まあそれも、授業の指定テキストなら教員が正してくれるだろう。

原著第7版はそれまでの版からの正常進化といってよさそう。COVID-19に言及されるなど、新しいトピックも入っている。

少しなかの様子をみてみよう。

第1章は「細胞」のはなし。教科書の第1章というのは、まあだいたいが読み飛ばしがちだし、生理学のテキストでまた細胞生物学的なことを繰り返さなくてもという気がするかもしれない。

しかし、「各臓器の…基板には共通の生理学的な原理がある」といって、ここでも勉強しろと。確かにそうだ、臓器の話のところで細胞内液やら外液やら繰り返されるので。

 

まず細胞から

 

続く第2章が「自律神経系」。神経系全般の話のにでてくる。生理的な調節を担うからそっちが先なのだろう。ここで本書のスタンスがはっきりしてくる。

第3章が神経系。神経系の生理学といっても、みなが押さえておきたい基本だけで、マジな神経科学や脳科学まではいかない。基本的な伝導路や大脳皮質の局在は出てくるけども、Papez経路のような込み入った話はないから、学びやすい。もし神経科学が必要なら、『ガイトン』や他の神経科学のテキストを

第3章には感覚器とその伝導路も含まれる。ここにある関連痛の説明は、原著第6版では髄節が同じというだけになっていた。原著第3版では収束説(体表痛と内臓痛が二次ニューロンを共有する)になっていたので、後退してしまった。

『コスタンゾ』でこれはないだろうと思っていたのが、「舌の味覚地図。原著者にはこれに変なこだわりがあるらしく、第7版の原著には掲載されている。これが都市伝説だとの研究や論説は半世紀前からある。日本語版では、本文からも図からも味覚地図の件が「そっと」削除されている。翻訳者の良心だろう。しかし、訳注として原著の誤謬を正してもよかったかもしれない。

  • Spence, C. The tongue map and the spatial modulation of taste perception. Curr. Res. Food Sci. 5, 598–610 (2022). 味覚地図の都市伝説が生まれるまでのまとめ

こうしたことは、単著のテキストにありがちなピットフォールではある。翻訳者の見識に感謝しよう。

 

図から味覚分布の文字が消されている

 

味覚地図の都市伝説のきっかけになった、エドウィン・G・ボーリングによる誇張されたグラフ(Internet Archiveより)。軸に単位のないのが怪しげだ

 

『コスタンゾ』で充実しているのが、臓器の生理学だ。「おはなし」で機能を説明するだけではなく、数式をたくさん使って、定量的に理解していく。しかも、ただ数式を羅列するのではなく、その意味づけを文章で説明し、ときには例題も使う。授業でこうした数式の計算が多く出てくるなら、本書は好適だ。また、臨床のいろいろな病態の理解にも重要になる。

試しに腎臓のところを読んでみよう。

最初は、腎臓の解剖学と組織学だ。なお、この部分の記述は図が足らないこともあって、わかりにくい。特に、腎臓内の特殊な血管系(腎動脈→輸入細動脈→糸球体毛細血管→輸出細動脈→尿細管周囲毛細血管→腎静脈)は、(書かれてはいるけれども)読み取りにくい。『組織細胞生物学』がわかりやすいので、そっちを読んだ方がいいかもしれない。

ともあれ、こうした「場」を読者とともに確認した上で、腎機能が数式で押さえられていく。数式が多くてクラクラしてきたら、先に章末のまとめをみておくといい。

腎機能検査の解釈や利尿剤の作用を理解するには、腎機能の定量的な理解が役立つので、頑張ろう。同じことは、心臓や肺などの他の章にもいえる。

 

腎臓の生理学

 

腎臓の話は、なんといってもネフロンから

 

腎機能を数式で理解していく

 

章末には練習の問題がある。

 

練習問題

 

本書には、オンラインコンテンツにアクセスできるコードが付属している。

エルゼビア社のテキストの多くに、こうした電子書籍が添付されている。しかし困ったことに、同社の提供しているプラットフォームが多種あるのだ。

  1. eBooks+ 原著の電子版の配信。フロー型の電子書籍。専用アプリでコンテンツをダウンロードできる
  2. Evolve 原著の電子版と教材(学生用・教員用)の配信。ブラウザで閲覧するオンラインのみ
  3. eLibrary 日本語電子版の配信。PDFベースの電子書籍。別の専用アプリでコンテンツをダウンロードできる
  4. Online eBook Library 日本語電子版の配信。フロー型のコンテンツで、ブラウザで閲覧するオンラインのみ

『コスタンゾ』の日本語版でいうと、原著第6版はeLibrary、原著第7版はOnline eBook Library。プラットフォームが変更されたのは、電子版だけの販売をスコープに入れているかららしい。(eBooks+の英語版も付属)

しかし、このオンラインコンテンツが使いにくい。ダウンロードできないので、いちいち通信が発生し、しかもレスポンスが遅い。本学は、10GbpsのSINETのノードになっていて、ビルのL3スイッチまで光ファイバーが来ている。LANがボトルネックになることは考えにくいので、SINETから先のどこかが遅いのだろう。

マーカーや描き込みはできない。メモを入れることはできるけれども、それを誰が使うだろう?

この電子版は4年間の期限付きでもある(医学科は6年制なのに?)。もしも教科書をiPadで読むことが多いなら、最初からM3の電子版を買ったらいい。Apple Pencilで描き込みもできる。

 

オンラインで全文を読める(小さく「利用期間4年間」とある)

 

スクラッチコードをみつけて、eBookにユーザー登録して、コードを入れる

 

紙面写真の本記事への使用について、エルゼビア様より許諾をいただきました(2024年7月30日)。他への転載はお控えください。