腹部消化管を栄養する3本の動脈と関連痛と虚血性大腸炎と分水嶺
今週の解剖学実習で、腹部消化管を栄養する動脈を観察した。まとめておこう。昨日の「剖出完了チェック」でもあった。
その3本の動脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈、下腸間膜動脈は、胚子の前腸・中腸・後腸を栄養する。前腸は胃から十二指腸の大十二指腸乳頭までと、そこから発生する肝臓・胆嚢・すい臓に相当する。中腸は横行結腸の右2/3(人によって多少違う)、後腸は直腸の上の方まで。
これらの動脈に伴走して、交感神経と痛覚神経がそれぞれの領域に分布する。脊髄レベルでいうと、前腸がT5~T9、中腸がT10〜T11、後腸がT12〜L1。これらに病変が起こると、それぞれのレベルの脊髄に入り、関連痛を生じる。おおまかにいえば、前腸なら心窩部、中腸なら臍周囲、後腸なら下腹部になる。
虫垂炎を例にすると、虫垂は中腸由来なので最初の痛みは臍周囲に起こる。これば内臓性の痛みなので、鈍くぼんやりとした痛み。炎症が右鼠蹊部の腹膜に広がると、その部位の局所の痛みになる。脊髄レベルならL1で脊髄神経由来。体性痛なので鋭い痛みになる。なお今回の実習では、虫垂が右側腹部に位置する解剖体があった。中腸回転異常と考えられる(回転不足)。このようなとき、痛みが移動するとしたら虫垂のある場所、この場合なら側腹部になっただろう。もし肝下盲腸だったら、胆のう炎との鑑別がつきにくかったかもしれない。
ちなみに、この現象にはエポニムが多い。虫垂の位置に相当する腹壁のポイントをマックバーネー点といい、そこをおすと関連痛が誘発されるのをアーロン徴候という。マックバーネー点の回りにもエポニムがほかにもある。
大腸を栄養する上腸間膜動脈・下腸間膜動脈やそれらの枝に狭窄や閉塞が起こると、その流域が虚血によって腸炎になる。虚血性大腸炎といって、びらん・潰瘍・出血を生じる。動脈の間に交通があるので、大半は補液と絶食で保存的に治療して回復するけれども、組織が瘢痕化し、腸の狭窄を生じることもある。今回の解剖体でもそのようなのが数例見られた。結腸膨起が消え、結腸ひももわかりにくい。高齢なので手術とはならなかったと思うが、イレウスで難儀していたかもしれない。
血管の流路の境目を分水嶺(ぶんすいれい)という。閉塞とまではいかなくても全体的に血流が減ったときには、分水嶺に虚血が生じる。結腸なら、左結腸曲あたり(上腸間膜動脈と下腸間膜動脈の間)と、S状結腸から直腸にかけて(下腸間膜動脈と内腸骨動脈との間)になる。
分水嶺はからだのいろいろなところにある。脳では、分水嶺梗塞というのが知られている。前大脳動脈と中大脳動脈との間の分水嶺に多発的に生じる梗塞のこと。
来週は、腹腔動脈のスケッチの課題がある。個人差の大きいポイントなので、実際に則して形を読み取っていこう。
コメントを投稿するにはログインしてください。