新しい人体の教科書 上・下 / 人体誕生
講談社ブルーバックスが創刊60周年だ。記念グッズのプロジェクトを自社クラファンでやったりしている。
グッズはともかくとして、記念として、ブルーバックスから600冊以上がKindle Unlimitedで無料になっている。解剖学関係の3冊も無料になっているので、授業で使えるだろうか。Kindle Unlimitedを契約しているなら、いちどみてみよう。
著者は北里大学医学部で永く解剖学を担当されていた。もと日本顕微鏡学会会長。
『新しい人体の教科書』は、解剖学のテキスト。上・下巻に分かれているが、Kindle版には合本もある。コート紙にカラー印刷の新書は、ページを開きにくくて読み辛いこともあるので、Kindle版の方がよい。ただし、マーカーを引いたりには対応していないようだ。
オーディエンスは、一般の読者。医療関係の学生には教科書にもなる。筆者の企てがまえがきの最後にある。多くのテキストや読み物のまえがきや寅さん映画にも共通してみかける話だ。こと解剖学は中高でちゃんと教えられていない(*)ので、評者も身に染みてこう願う。
* 高校の生物の参考書に心臓も肺も載っていないのにビックリした。
全体の構成は、「系統解剖学」になっている。つまり、骨格系、筋系、神経系、消化器系…というように、人体を系統別に分けて説明するやりかただ。
『グレイ解剖学』のような部位ごとに説明する「局所解剖学」とは異なるので、解剖学実習のコンパニオンにはなりにくい。一方で、著者は解剖学の先生であっただけに、医学科の解剖学の試験ならどの大学でも出そうなポイントが、ちゃんと押さえられている。そのあたりのところを、キャプチャーでみていこう。出題ポイントには赤い線を入れてある。
ボリュームからして医学科の解剖学をカバーするには足らないけれども、意識高めの学生が、授業が始まる前の学年のうちに全体を概観するには十分と思うし、後の解剖学実習で学ぶ局所解剖学と合わせて、縦糸横糸になっていい。
分子生物学や生理学的な内容も少しは出てくるけれども、基本は解剖学だ。医療系の学生で、科目名が「解剖生理学」だと、生理学の部分が足らなくなるだろう。
人体発生学のテキスト。説明が駆け足になっていたり、図がもう少しあったらという部分は否めないが、授業が始まる前の概観には十分だろう。
ちょっと驚いたのは、ヘッケルの「生物発生原則(反復説)」が無批判にでてくること。このあと、ヒトにもサカナと同じ鰓ができる、という話がでてくる。咽頭弓ではなく鰓弓という用語が採用されているが、「本書ではエラに親しみを持って、あえて鰓弓という用語で解説を進めている」という。「玉石混交」なら、「石」寄りだと思うんだが。
系統発生のちゃんとした本を読んで気分転換しよう。
ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト: 最新科学が明らかにする人体進化35億年の旅 (ハヤカワ・ノンフィクション...
Kindle Unlimitedを契約していないなら、購入するまでもないかもしれないし、予習だとしても『グレイ解剖学』や『ムーア人体発生学』などを読んだ方がいいかもしれないが、ともかく今は無料だから…
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