発生生物学: 基礎から再生医療への応用まで
発生生物学のテキスト。主に理系の大学教科書として企画されている。生物学の基礎から発生生物学の応用までカバーしている。
読者の対象には高校生も想定されている。入試への出題があるかもしれないからという。一般入学だと学習指導要領のしばりがあるからその範疇にはなる。一方で、本学に限らず医学部編入学試験なら医生物学に取材した出題がある。その準備には役立つだろう。
出版社は裳華房。医学系ではなじみが少ないけれども、理系の大学教科書をたくさん出している。
語り口が、学生によりそっていて優しい。各章の冒頭にそれが現れている。「いきなりは難しいから簡単な話しから」と、ショウジョウバエの発生の話しが始まる。この一文がもしなかったら、読者は「なんでショウジョウバエ?」と戸惑うだけかもしれない。「単純な生物モデルから研究を始めて、相同性をふまえて、複雑な生物種を洞察する」という生物研究全体のストラテジーも理解できるだろう。
もくじ
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- 発生生物学の基礎と応用:総論
- 体を作るとは:発生生物学の諸概念
- 発生生物学を理解するための基礎知識
- 発生生物学を研究するための諸技術
- 無脊椎動物の発生:ショウジョウバエを例に
- 体軸決定と三胚葉形成
- 神経誘導:脳と神経のはじまり
- 細胞の再配置:形態形成運動
- 器官形成:体のパーツはどうやってできる?
- 細胞分化と幹細胞、そして再生
- 再生医療:発生生物学の応用
最初に発生生物学を学ぶひとのために、その前提になる、発生の概念、分子生物学、方法論が最初の4章で語られる。
第5章からが発生生物学になる。何はともあれ、ショウジョウバエの研究で発見されたモルフォゲンやホメオティック遺伝子。そして、軸決定、誘導など、発生現象の基本に進み、器官形成へ。
体節形成や肢発生など、ひとつだけで本一冊になったりする項目も、要点の遺伝子だけ押さえてごく簡潔に述べられる。半期15回の講義用のテキストだからではあるけれども、とりあえずこれで十分だろう。
筆者はもともと発生生物学の基礎研究者だったが、再生医療研究との関わりから考えさせられることがあったらしい。再生医療に関する第11章では、「生命科学の進歩の裏にどのような問題が潜んでいるか」にも話題が向けられる。もしかして、語られる以上にダークな話しがあるのかも、と変な期待をしてしまう。
そんなときは、裏表紙に癒やされる。発生生物学を支える実験モデルたちだ。
もっと学ぼうと思ったなら、『ギルバート発生生物学』を。日本語版は原著第10版に相当する。原著最新は2019年の第12版。原著には米国内版とインターナショナル版がある。インターナショナル版の方が安価だが、参考文献を欠く。
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