臨床神経解剖学 原著第8版

臨床神経解剖学 原著第8版

臨床神経解剖学 原著第8版

Estomih Mtui, Gregory Gruener, Peter Dockery
10,780円(11/17 19:30時点)
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『Fitzgerald’s Clinical Neuroanatomy and Neuroscience』の日本語版で、原著第8版に相当する。形態学をベースに、神経科学の成果と臨床との関連を折り込んだテキスト。わかりやすい立体的な図が豊富にあるのが特徴だ。VARKでビジュアル系のスコアが高い人に向いている。

神経科学自体は例えば『カンデル神経科学 第2版』などの専門書で学んだ方がよいが、神経機能の場としての脳や脊髄の形態は、神経解剖学ベースで押さえておきたい。神経解剖学や脳実習の授業は、本学に限らず短期間で済まされることが多く、形態を意味づける間もなく終わってしまいがちだ。そういうときに参考にしておくとよいだろう。

本書はタイトルがいろいろに変遷している。もとは、モーリス・ジョン・ターロック・フィッツジェラルド氏による単著『Neuroanatomy: Basic and Applied』だった。第4版のときに共著者が加わって『Clinical Neuroanatomy and Related Neuroscience』になり、第5版で『Clinical Neuroanatomy and Neuroscience』になった。2014年にフィッツジェラルド氏が亡くなった後も共著者らが引き継ぎ、第7版からタイトルにFitzgeraldの名が冠されている。

オビにある「待望の」というのは、原著第7班の翻訳がスキップされたためのようだ。翻訳が継続されてよかった。

 

オビ

 

カバーを外すとモノクロのシックな表紙

 

今回の改訂では、日本語版と英語原著のそれぞれの電子書籍が付属するようになった。最近、英語版の電子書籍のプラットフォームが、Inklingをベースにした「StudentConslt」からVitalSourceをベースにした「eBook+」に変更された。本書ではこれも反映されている。

英語電子版はリフロー型で、画面サイズにかかわらず読める。冊子体と同じ内容で、電子版独自の付録などはない。ブラウザなどで読める。

日本語電子版は冊子体と同じ誌面が再現される。ブラウザや専用アプリで読める。以下の日本語版の誌面はこれを加工して使った。

 

スクラッチコードがある。

 

英語原著の電子版

 

ベースが神経解剖学なので、目次も概ね神経系の形態に沿っている。神経解剖学の授業で参考しやすい。神経科学や臨床から形態が意味づけられているので、理解がはかどるだろう。

 

もくじ

 

もくじ

 

脊髄の上行路のところをみてみよう。最初のページに、学習目標と概説があり。各論が続く。伝導路の図が立体的で、神経束のボリュームまでみてとれる。

臨床関連事項が囲み記事でまとめられている。

 

章の最初のページ

 

概説:上行路が模式図とともにまとめられる

 

伝導路のボリュームまでみてとれる立体的な図(この図は荒れが目立つ)

 

臨床関連事項のパネル記事

 

他の章でもカラフルなまとめの図がたくさんある。調節系(賦活系)など、文章の説明だけ、ごく簡単な模式図だけではふわっとしがちだが、本書の図はディテールまでよくまとまっていて、ピシッと把握できる。

 

調節系

 

参考:調節系の説明で用いられがちな簡便な模式図の例(脳科学事典より)

 

日本語版電子書籍は、iPadやパソコンで読むのがよいだろう。図のほとんどはIllustratorで描かれたベクトル画像のはずだが、一部(数割)が粗いビットマップになっていて見辛くなっているのが画竜点睛だ。データのアップデートを望む。

翻訳文は概ね大丈夫なのだが、読解に難儀する部分もなくはない。

たとえば、海馬傍回の項目。こういう、委細に立ち入るとキリがないような項目によくある書き方で、「おおまかにいえば」という概略的な説明になっている。こういうのは綱渡りのようなもので、ことばづかいのディテールまでよく調整しないと、分かるような分からないような感じになりがちだ。原文はその辺がうまく書かれている。翻訳文を原文と比べてみると、「consolidation(記憶の固定)」の翻訳をミスっていて、「統合」「固定」と不統一に訳されている。これが理解を難しくしている。

The parahippocampal gyrus is a major junctional region between the cerebral neocortex and the allocortex of the hippocampal complex. Its anterior part is the entorhinal cortex (area 28 of Brodmann), which is six layered but has certain peculiar features. The entorhinal cortex can be said to face in two directions. Its neocortical face exchanges massive numbers of afferent and efferent connections with all four association areas of the neocortex. Its allocortical face exchanges abundant connections with the hippocampal complex. In the broadest terms, the entorhinal cortex receives a constant stream of cognitive and sensory information from the association areas of the neocortex, transmits it to the hippocampal complex for consolidation (see later), retrieves it in consolidated form, and returns it to the association areas where it is encoded in the form of memory traces. The fornix and its connections form a second, circuitous pathway from the hippocampus to neocortex.

海馬傍回 parahippocampal gyrusは,大脳新皮質(等皮質)と海馬体の不等皮質の主要な移行領域である.この前部は嗅内皮質(嗅内野)entorhinal cortex(ブロードマンの 28 野)で,6 層構造を示すが,ある独特な特徴をもつ.嗅内皮質は 2 つの面に向いているといわれる.新皮質の側面 neocortical face は,新皮質の 4 つすべての連合野と多くの相互連絡を有する.不等皮質の側面 allocortical face は,海馬体との豊富な連絡である.大まかにいえば,嗅内皮質は連合野からの認識や感覚情報を絶えず受け,それを統合(後述)のために海馬体へ伝達し,固定様式に変換し,連合野へ返す.連合野では,この情報は記憶痕跡の形として信号化される.脳弓とその線維連絡は,海馬から新皮質への第 2 の迂回路である.

原著の方でも、書籍を通してみたときに、ラフエッジが残っているようだ。たとえば、上の文章の「(後述)」の参照先が遠すぎてどこだかわかりにくい。また、感覚神経の一部が前根から脊髄に入るという記述。原著第6版にはあり、第7版で削除されたのだが、そこを参照する部分が他の場所にあってオーファンになっている。そして下行路の図に間違いがある。訳注で指摘されているが、図自体を修正したらわかりやすくなったのではないだろうか。

「神経解剖学」というと、どこそこがどこそこに投射している、なんていう記載が延々続いていて、何の意味づけもないのが、神経科学がふつうになってからも名著とされていた。そこからすれば隔世の感だ。

神経解剖学

神経解剖学

新見 嘉兵衛
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