すこし痛みますよ〜ジュニアドクターの赤裸々すぎる日記

すこし痛みますよ〜ジュニアドクターの赤裸々すぎる日記 (PEAK books)

すこし痛みますよ〜ジュニアドクターの赤裸々すぎる日記 (PEAK books)

アダム ケイ, Adam Kay
1,707円(12/18 12:46時点)
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現在、本学医学図書館で企画展示「病院研修&実習応援企画」が開催されている(9月中旬まで)。本書『すこし痛みますよ』と、『ナースは誰を愛してる?』も近く追加されるはず。

 

 

本書は、羊土社の「PEAK Books」レーベルの読み物。実写ドラマ化され、日本ではWOWWOWで放映された:「産婦人科医アダムの赤裸々日記」(配信)。

日記の形式を借りたドラマ。自伝、ドキュメンタリー、問題提起、コメディーといういいかたもできる。筆者自身の経験に基づいているようだが、匿名化はされている。英国ではミリオンセラーになった。

筆者は英国のコメディーライターで、元産科医。医師を辞め、学生時代から関わっていたコメディーに専念した。キャメロン政権での研修医の待遇改悪を機に本書を書いたという。文末に当時の保健大臣に当てた公開書簡がある。著者の人となりについては、もしかするとこれ以上は知らずに読んだ方がいいかもしれない。読めば気づくだろうから。

読むに当たって、英国の医療制度は知っておいてよいかもしれない。

英国では、医療費は無料だ。つまり、医療機関は混んでいて、医師は多忙で、給与は低い。この制度は健康保険サービス(NHS)と呼ばれ、税金によって賄われる。その費用は英国の国家予算のおよそ1/4になる。

NHSは大きく2つに分かれていて、ひとつは、かかりつけ医(GP)。もうひとつは病院の専門医。国民は最寄りのGPを選んで登録してもらう。救急以外はここにまずかかり、必要なときに専門医のいる病院に行く。病院では専門医とそれを目指す研修医・医員がいて、診療に当たる。有料の私立の医療機関もあるが、カバーされる疾患は限られる。

英国には日本の医師国家試験に相当する試験がなく、医学部の試験をパスすれば研修医の資格が与えられる。

病院の医師は細かく階級分けされている。本書の図を借りるとこんな感じ(名称は後に変更された;年限は専攻科による):

 

 

最初は、ハウスオフィサー(日本なら初期研修医)、それが終わればシニアハウスオフィサー(後期研修医)。ここでコンサルタントを目指すか、GPを目指すかを選ぶ。

シニアハウスオフィサーのあとは、レジストラー、シニアレジストラーと、長い修練が続く(医員)。それが終わればコンサルタント(専門医)と認められ、さらにシニアコンサルタント(指導医)になる。シニアレジストラーやコンサルタントになれば、部署の運営や後進の指導も担う。

筆者は、ハウスオフィサーからシニアレジストラーまで、心身を削って頑張った。日記には、そこで経験したエピソードがユーモア(多くはブラックユーモア)をもって語られる。ハリー・ポッターにあるように、辛いときこそ笑いが必要なのだ。そして、コンサルタントへの昇進を目前にして、壊れた。

エピソードをひとつ。研修医同士のランチ。怪談の百物語のように、最近の症例の可笑しな話を順にもちだしていたときのこと。

シェイマスの番がきた。彼は今朝、救急外来で、顔の半分しか汗をかかない気がするという患者を診察した。シェイマスはゆったり構えて笑いが起こるのを待った。が、場は静まり返った。そして、みんなほとんどいっせいに「それって、ホルネル症候群じゃない?」と叫んだ。

ホルネル症候群のことは解剖学と生理学を履修したら知っているはずだけれど、胸部の解剖実習の前説のときに強調しておいた方がよさそうだ。

問いホルネル症候群を特徴付ける頭頸部の3つの徴候を挙げ、それらが胸部病変(特に肺癌)によって起こり得る仕組みを説明せよ