新・養生訓 健康本のテイスティング、新型コロナワクチン 本当の「真実」
リアルライフを科学的・批判的におくるための方法論というか、態度というか、そういうのの養成のための本を2冊。ネタは「健康本」と「コロナ本」。信頼できる本を探す方が難しい分野だ。
タイトルからわかりにくかもしれないが、医療や健康に関する、いわゆる「健康本」のファクトチェックをしている。養生訓が直接書かれているわけではない。感染症医とBuzzFeed記者との対談になっていて、読みやすい。チェックされているなかには、著者自身の過去の著作もある。
企画当時に評判だった健康本のいくつかをネタに、医療に関する本の「正しさ」を吟味するポイントをていねいに押さえていく。医療情報の「科学的」な評価の仕方が読者の中に整えられていくようになっている。「同調圧力は大嫌い」というDr. イワケンのいろいろ刺激的な発言がまあ、たくさん書かれているわけだが、とりあえず1つだけ:
- 「免疫力アップ」の本は読む価値なし
これはちゃんとした専門家なら、およそ共通している認識だ。
コロナ以前の本なので、情報のアップデートは必要だ。例えば、本書ではマスクだけによる感染予防には懐疑的である。しかし、2年近いコロナ対策の行動変容(ステイホームやソーシャルディスタンスやマスクなどいろいろ)だけで、インフルエンザの発生は皆無になってしまった(インフルエンザワクチン接種率も少し増えたが、集団免疫に寄与するほどではない)。新型コロナが無症状のうちに感染していくのも、それまでの想定になかった。
でも大丈夫。「科学」は常にアップデートされているので、そのために言うことが修正されるのはいつもの事だし、そうでないといけない。本書にもそうあるし、他の本、例えば『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』にもそうある。
免疫学者による、新型コロナウイルスワクチンの解説。2021年8月刊で、抗体カクテル療法までのアップデートを含む。
コロナ本は珠玉混交、多数出版されすぎて、タイトルの文言にインフレを起こしている。著者が「研究者」だというだけでは信頼できない状態だ。本書のタイトルもまあそんなだが、読んで判断しよう。
特徴的なのは、全8章中の第7章、雨後の筍のように出版されたコロナワクチンに対する「逆張り」本の検証。基礎医学を学び、データを追えていれば、ウソなのはすぐわかる本ばかりだ。しかしそういうのがAmazonのランキング上位にいたりする。逆張りは簡単に衆目を引くようだ。
本書は実名を挙げてそれらを批判していると少し評判になったが、科学であれば対象を特定しなければ成り立たない。書かれた内容の真偽を論じているのであって、それぞれの著者の是非ではない。誤認や堕天や君子豹変は誰にでも生じ得るし、そもそもサイエンスでは専門外のことは耳学問同然なので、人物だけを真偽判定のキーにするのは危うい。
検証は実りのない作業だが、丁寧に科学とデータに基づいていて、そういう姿勢自体が参考になる。
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