新 先天性心疾患を理解するための臨床心臓発生学
心臓の発生学・発生生物学のテキストが改訂された。心臓発生を総括できるテキストは、世界的にも稀だ。専門性の高いテキストながら比較的安価に継続されているのは、ありがたい。
Cardiovascular Development: Methods and Protocols (Methods in Molecular Biology, 2319)
前版が10数年前で、それ以降の発生生物学・分子生物学の発展がこの改訂で反映されている。全体が総論と各論に分かれ、およそ2:3の割合だ。
- なお、実質的には改訂版だが、「新」が付いて書名が変わったので出版上は初版になる。和書に多い流儀だが、改訂が続くと名称が破綻していくので、版番号にしたらいいと思う。
総論では、心臓の発生を概観する。内容は人体発生学や発生生物学の教科書にあるようなもの。図には、他の教科書の引用らしいものだけでなく、独自のイラストや実際の解剖標本を使った写真が多く使われていて、心臓の立体的な構築ができるだけわかりやすく構成されている。
発生生物学や分子生物学の知見も取り入れられている。内容のアップデートされている証に、二次心臓野の発見に基づき、発生を司る遺伝子群を語彙にして理論が組み立てられている。人体発生学の教科書でも、二次心臓野に言及されているのは新しい知見を積極的に取り入れているものだけだ。
日本語で読める教科書では、二次心臓野に多少とも言及があったのは『新発生学』だけだった。
ただし、本書でも記述に不統一がある。最初の章「心臓大血管の発生(概論)」では二次心臓野の概念は入っていないが、3つめの章「心臓大血管の発生の分子細胞生物学」では一次・二次心臓野の概念に基づいて心臓の初期発生が説明される。著者は同じなので、改定時のすりあわせ不足だろう。
これに限らず、用語が未定義のままで使われていたり、タイトルやキャプションが欠けている図が散見されるなど、テキストとしての詰めの甘さはある。
教科書的な記述だけではなく、研究方法もいくつか紹介されている。
各論では、心血管系の発生異常が部位別にまとめられている。
詳細な本書を読むのが大変だったら、編者の一人の総説をまず読んみるといいと思う。PDFを無料で読める。
- 白石 公. 2018. ここまで知っておきたい発生学:発生・形態形成の基礎知識. 日本小児循環器学会雑誌 34:88–98. 10.9794/jspccs.34.88
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