外科の夜明け Das Jahrhundert der Chirurgen
Jürgen Tohrwald(J. トールワルド)氏の『Das Jahrhundert der Chirurgen(外科医の世紀)』は、これまでに3回翻訳されている。
- 1966年、塩月正雄 訳『外科の夜明け』
- 1994年、大野和基 訳『外科の夜明け』
- 2007年、小川道雄 訳『近代医学のあけぼの』
塩月訳と大野訳は抄訳である。塩月訳は1967に「現代世界ノンフィクション全集」に収録され、1971年に講談社文庫になった。大野訳のほうがより省略されていて、原著にあった参考文献のリストも省略されている。大野訳には養老孟司氏の解説がある。小川訳は完訳である。塩月氏は医師、大野氏は医学ジャーナリスト、小川氏は外科医で元熊本大教授・副学長。
ストーリーは19世紀の欧米、麻酔もなく舌癌を切り落とし、焼きごてで切り口を焼いていたような「外科手術」の時代に始まる。じきにウェルズが笑気ガス麻酔を試し、モートンがエーテル麻酔法を開発した。また、パスツールが微生物の自然発生を否定し、リスターがフェノール消毒法を開発した。麻酔法と消毒法の発明によって、今日に続く外科学が発展していく。本書はこれを活写していく。
塩月訳、大野訳は抄訳で短い分、時代のダイナミクスがより感じられる。塩月訳の文庫判は、確認できたうちでは1981年の第9刷まで続き、多くの医学生を刺激した。これを読んで外科医を志したという人もいる。本学図書館にあるのは、そのような外科教授の推薦によって古書のマーケットから図書館が収蔵したものだ。塩月訳、大野訳とも絶版になっていて、状態のよい古書には数千円〜数万円のプレミアがついている。再販されるといいが。
小川訳は完訳なので、原著の情報が余さず伝えられている。日本語のぎこちなさが少し感じられる。
塩月訳、大野訳、小川訳を覗いてみよう。
この著作には続刊がある:『Das Weltreich der Chirurgen(外科医の帝国)』『Die Entlassung(解任)』。前者は塩月訳がある。また小川訳が両者にある。
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