あたらしい人体解剖学アトラス 第2版

あたらしい人体解剖学アトラス』が改定されて第2版になった。本書のために新規に制作された図版、厳選された内容、解剖の順に沿った論理的な構成が特徴だ。イラストによるアトラスでは最も小さい(『人体解剖カラーアトラス』は写真、『プロメテウス解剖学アトラス コンパクト版』はフラッシュカードの原著の冊子化)。『グレイ解剖学』との面積比で0.38しかない。

 

 

本書がコンパクトなのは、図が解剖学実習で必要なものだけに厳選されているからだ。解剖学実習では、それぞれの構造の形や位置関係を読み取り、各部の名称を参照するのにアトラスを参照することが多い。本書の図版は、こういう目的に適っている。

図にはキャプション(図の解説)がない。臨床関連事項などの込み入った内容が省かれているので説明不要なだけだ、ともいえる。授業で形と名称以上の知識が問われるなら(たいていはそうだ)、『グレイ解剖学』などのテキストで学ぶことが必須だ。

 

まえがきから:解説文はない

 

解剖順に図版が選ばれて配置されているので、解剖しながら解剖学名を探すなど、解剖学実習室で参考にするには使いやすい。『グラント解剖学実習』の作業順と同じになっていて、解剖学名もその時々で必要十分なものが記されている。本をあちこち探し回ることが少ないだろう。

本書の旧版と『グラント解剖学実習』はいずれも、P.W. Tank氏が制作にかかわっていた。実際、『グラント解剖学実習』の原著『Grant’s Dissector』には、本書の原著『Lippincott Atlas of Anatomy』への参照が入っていて、一緒に使うのが便利になっている。日本語版の『グラント解剖学実習』でそれが省略されているのは残念だ。

実習を思い出しながら、胸部のところを見てみよう。

 

前胸壁を外した(右)。左側の図は本書に特徴的で、一部が半透明になっていて位置関係や奥行きがわかりやすい

 

胸膜、心嚢を順に開く

 

心臓を取り出し、心臓の外観をみる。この後、心臓の内部を見た後…

 

心嚢と取り除いて心臓のすぐ後方の食道を見る

 

形状は、最も標準的なのが選ばれている。冠動脈など、多様性の多い構造については、別に図が用意される。

 

冠動脈の多様性。名称は北米流

 

自律神経系などのまとめの図が章の後の方にある。解剖学実習では全体像をみるのは難しいので、図になっていると助かる。

 

自律神経系

 

断面解剖学や画像解剖学の図版もあるが、少しだけだ。画像解剖学を解剖学実習でも学ぶ授業なら『グレイ解剖学』や『画像解剖コンパクトナビ』も使おう。

 

断面解剖学

 

章末には骨格筋の表がある。第2版で追加されたものだ。

 

骨格筋の表

 

本書の最後の章は、自律神経系だ。全身に渡る交感神経系、副交感神経系を概観できる。

 

自律神経系の章から、交感神経系のまとめ

 

本書の日本語版のタイトルに「あたらしい」とあり、原著には「Lippincott」と出版社名(現、リッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンス)が冠されているのはなぜか。

解剖学書の名著を擁する出版社にはいずれも、解剖図の充実したコレクションを持っている。旧来は手描きの図版か写真だったが、『グレイ解剖学』のころから、新規にCGによる図版が計画されるようになった。一人または少人数のアーティストがコレクション全体を描くことが多かったが、プロダクション方式で制作されることもある。本書では、Anatomical Chart Companyが初版の図版を制作し、それに基づいてBody Scientific Internationalが第2版の図版を制作した。

同じ場面の図をいくつか見比べてみよう。

 

『ネッター解剖学アトラス』

 

『解剖学カラーアトラス』

 

『プロメテウス解剖学 コア アトラス』

 

眼窩に出入りする神経に関して、他のアトラスでは形状があいまいに描かれていることがある。本書では大丈夫のようだ。

 

眼科に入る神経