The Developing Human, 11E
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The Developing Human - E-Book: Clinically Oriented Embryology (English Edition)
『The Developing Human』は、『Langman’s Medical Embryology』とともに最も成功している人体発生学の教科書のひとつ。一昨年末に改訂された第11版を紹介する。Keith L Moore博士は昨年末に94歳で亡くなったが、共著のT. V. N. Persaud博士とMark G Torchia博士が後を継ぐのだろう。
従来から継承されている『The Developing Human』の特徴は、つぎのように要約できる:
- 豊富な美しい図版とわかりやすい説明
- 臨床医学の諸問題を発生学から説明する
- 形態変化の記述にフォーカスし、分子生物学は含まない
しかし第10版以降、分子生物学の知見が少し加わり、この第11版でも追加された。そのあたりの事情が前書きに語られている。ただし、分子生物学の情報はまだ最少限の基本的な知識にとどめられている。
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前書きは、近年の分子生物学の隆盛やゲノム編集の話題から語られる
従来の豊富な図版には、カラフルな模式図の他、写真も多い。なかには現代では入手困難な、ごく初期のヒト胚の写真もある。今回の改訂でさらに図版、特に臨床からの画像が増えた。これらを提供したコントリビューターが4ページにわたって紹介されている。
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コントリビューター(一部)
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人体発生のタイムラインを概観できる図。便利だ
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ごく初期の胚の顕微鏡写真は現代では入手困難。対応する模式図とが見開きで示される
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胎内の胚の写真は貴重(左上と右下)。3Dエコーの画像や模式図と共に
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心室中隔の形成:理解の難しい立体的な構造変化が、色分けされた模式図で説明される
ところどころに、水色の囲み記事で臨床関連事項が紹介される。正常な形態変化と先天奇形とを関連づけて理解できる。
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心室中隔欠損症の説明
章末には臨床症例の問題があり、学んだ知識を臨床に当てはめられる。
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章末の臨床問題
今回の改訂で、分子生物学の情報も本文中に記載されるようになった。形態変化のストーリーと行き来するときに混乱しないよう、詳細は斜体で示されている。
その内容は概略的で、文章に対応する図が足らない。詳しくしようとすれば膨大なボリュームになるので、今後も少しずつ加わっていくのだろうか。
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四肢発生の分子機構の説明。概略的な内容だ
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肢芽伸張の分子機構のまとめの図
エルゼビア社の他の教科書と同様、本書にもStudent Consultの電子版が附属している。表紙裏のスクラッチコードを使う。スマホ、タブレット、パソコンで閲覧できる。スマホとタブレットでは専用のアプリを使い、書籍データは端末にダウンロードされる。パソコンではブラウザを使い、ネット上のデータに逐次アクセスする。
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スクラッチコード
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Student Consultにログインし、REDEEMのところにコードを入れる
電子版は紙面のままの表示ではなく、端末に合わせて表示されるリフロー型だ。内容は冊子の全文だが、電子版独自のコンテンツもある。
ひとつは形態変化のアニメーション。簡単な模式図だけれども、立体的な形態がわかりやすい。もうひとつは、5択問題。画面上で選択すると成績が表示される。また、本文の臨床問題では、すぐ下に正解が隠されている。冊子では正解は巻末にまとめられているので、電子版の方が参照が楽だ。
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心臓の中隔形成のアニメーション
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選択問題
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本文中も臨床問題では、すぐ下に正解が隠されている(図はそれを開いたところ)
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電子版の本文中には、付録へのリンクが加えられている
残念なことに、日本語版は原著第8版を最後に改訂が止まっている。アップデートが望まれる。
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