Human Embryology and Developmental Biology, 6E
Human Embryology and Developmental Biology, 6e
著者名を取って『カールソン』として通称される人体発生学の教科書。2019年に改訂され第6版になった。
進歩の著しい発生生物学の知見を、古典的な形態学としての人体発生学に統合している。発生生物学、特に分子レベルの知見が入ると教科書が厚くなりがちだが、医学部の授業でもどうにかこなせる量に抑えてある。そのために熟慮して内容が取捨選択されている。
人体発生学と発生生物学との比率をもとに、他の教科書と比べてみよう。(参考:発生学の教科書を買う)
形態学としての人体発生学
明解な図や表がたくさんあり、形態変化がわかりやすい。
内容が厳選された発生学の教科書。やさしい色彩の図。
人体発生学+発生生物学
もともと講義ノートなので、医学部の発生学の授業のコンパニオンにちょうどよい。京都コレクションのオリジナルなヒト胚の画像が多く使われているのが、他に類をみない。
詳しくて分量が多く、難易度高い。原著はこのあとの版でさらに増えた。
本自体は小さいが、内容が高密度に詰め込まれていて、難解。改訂のときに点描画がデジタルでトレースされたけれども、却って形状が分かりにくくなり、伝言ゲームのように誤りも入った。
発生生物学
発生生物学の教科書のメインストリーム。生物全体をカバーしているので、人体発生学の授業なら参考書として。
『カールソン』
『カールソン』は『人体発生学ノート』より詳しくて図が多く、『ラーセン人体発生学』よりも内容が整理されていてわかりやすい。膨大な数の分子に読者が溺れないよう、形態変化の基軸になる分子を選んで上手にまとめられている。
本書の模式図の多くは、筆者自身のスケッチをもとにイラストレーターのAlexandra Baker氏が描いた。いずれも落ち着いた色調で目に優しく、線画ながら立体感がある。
全体が2部で構成されていて、第1部が初期発生、第2部が系統ごとの器官形成になる。また、第1部には形態形成に関わる分子が概説されている。本書を学ぶに当たってここをよくおさえておくと、後の章でいろいろな分子機構がでてきたときに理解が早いはずだ。
今回の改訂では、最近の新しい知見が反映されたほか、図表がいくつか追加されている。
また、論文の写真からの引用が追加され、イラストでは再現できないリアリティーが増した。加えて、胎内の胎児の写真もいくつか追加された。Jan E. Jirasek氏によるもので、『An Atlas of the Human Embryo and Fetus』として出版されている(書評)。
他のエルゼビア社の教科書と同様、Student Consultの電子書籍のスクラッチコードが付いている。コードを使うと、iPad/Androidの専用アプリ、Mac/Windowsのブラウザで教科書の全文を読める。
電子版だけのオプションとして、発生のムービーが18本附属している。ただし、これらのムービーは本書とは別途に企画制作されたものらしく、本書の本文にはない誤りないし陳旧的表現がみられる。本文をちゃんと読んでから視聴した方がよい。
なお本書には邦訳もあるが、原著第1版(1994年)の翻訳でとても古いのでおすすめしない。
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