実習にも役立つ人体の構造と体表解剖
本書の原型は、神戸大学医学部保健学科の解剖学の授業(2015年度のシラバス)で使われていたテキスト、『実習で学ぶ人体の構造』である。筆者が独自に執筆し、印刷・製本された冊子が履修生に配布されていた。筆者の定年退官を機に市販化された。
大学の保健学科や医療系の専門学校の解剖学の授業では一般に、実習はあっても、すでに剖出された標本を観察する「見学実習」で、履修生自身が剖出することはない。一方で神戸大学医学部保健学科では、医学科と同等の解剖学実習がある。それに伴い、講義での要求も高いようだ。実際、2018年度のシラバスでは教科書に『臨床のための解剖学』が指定されていた。
本書は保健学科向けの解剖学書としては大きな本だ。この一冊に、解剖学の教科書、体表解剖学の実習書、肉眼解剖学の実習書、神経解剖学の教科書、発生学の教科書の内容が含まれ、それぞれが章立てされている。保健学科向けに不要な内容は省かれているとはいえ、組織学を除けば解剖学のフルセットだ。
- 1章 人体の概要
- 2章 体表解剖学実習
- 3章 人体解剖学実習
- 4章 中枢神経系
- 5章 骨格筋の発生と神経支配
解剖学用語にはラテン語が付記されている(一部だけ英語)。今日的には、英語のほうがよかった。全体が単色の印刷で、デザインも素っ気ないのは、価格を抑えるためだろう。図はすべて筆者自身によるもので、点描画。生物学では素養として点描画のスケッチを仕込まれる。筆者もそうだったのだろうと想像される。この利点として、簡単な印刷でも陰影を再現しやすいことがある。
1章では、系統別に骨格系、血管系、末梢神経系が説明される。そのほかの系統は、以降の章に含まれている。「概要」とはいってもかなり詳しい。
2章は、体表解剖学の実習書だ。ここを教育上の参考にしたいというのが今回本書をみた主な動機だった。
体表解剖学は、画像解剖学と合わせて、診療の重要な基礎知識になる。保健学科なので、看護、PTOT、臨床検査の仕事で必要になる知識が載っている。ただし、臨床からの具体的な介入があったらよかったろうと思われる部分がないわけではない。たとえば、肘の皮静脈とその周辺の構造に関する知識は、看護や臨床検査なら詳細に知っておきたいところ。しかし本書では、肘正中皮静脈が多く使われるとの説明があるだけだ。医療事故の抑止にはものたらない。なお、「触察」というのは、PTOTで使われることばで、運動器の触診のこと。
3章は解剖学実習。実習のための準備知識が語られ、剖出手技が囲みで説明される。手技の説明が端的なので、実際に学生に解剖させるには、現場で教員の介入が多く必要になると想像される。
4章は神経解剖学。
5章は発生学で、骨格筋と神経系だけ。筋と支配神経との対応付けを発生学の面から理解させようとの意図のようだ。
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