Cell Biology, 3E
細胞生物学の教科書の改訂版で11月の新刊。筆頭著者のPollard博士は、Yale大学のSterling Professor(同大の学術職での最高職位)で、細胞骨格など細胞生物学に貢献をし、米国細胞生物学会と生物物理学会の会長も務めた。自身は70歳を超えるが、この改訂で新しい研究成果や技術が盛り込まれた。原著なので読者は院生や研究者になるだろう(英語がOKなら学部生の授業にも)。
まえがきには、本書の目標が述べられている。細胞生物学は急速な進歩のためにどんどん複雑になっているかのように感じられるが、実際は仮説や曖昧さがなくなってシンプルになり理解しやすくなっている。それを示すのが目標だという。
この目標は、実際の記載に現れているようだ。今年のノーベル賞になったオートファジーの説明を見てみよう。まず、前振りなく、冒頭からオートファジーが定義され、その生物界での意義(単細胞生物での飢餓への防御機構から発達した)が説明される。論理的にトップダウンで、少ない分量ながら見通しよく理解できる(*)。
比較のために、『Molecular Biology of the Cell』第6版(2014年)のオートファジーの項目をみよう。記載が抽象と具体例との間を行き来していて、そのために理論的な構造が伝わりにくいかもしれない(特段劣るわけではないが)。
『Cell Biology』は全体がセクションで分けられ、セクションがさらに章で区分される。セクションの冒頭には「概説」があり、セクション内の各章を概観できるようになっている。ここでは、Pollard博士の専門の細胞骨格のセクションをみよう。「概説」で3種の細胞骨格が蛍光顕微鏡と電子顕微鏡とで示される。
この後に、細胞骨格の種類ごとの章が続く。説明には図がふんだんだ。そのほとんどは、実際の研究データや論文から引用されている。模式図の一部がオリジナルなだけだ。引用先は多様で、筆者らの人脈の強さがうかがえる。本書からスタートして知識を広げようとするとき、図の根拠が確かなこと、参照先が多様なことは、とても有効なはず。
エルゼビア社のほかの教科書と同じく、本書にはStudent Consultの電子版(全文)も付属している。『Molecular Biology of the Cell』第6版にはKindle版もあるが、冊子体とは別なので、追加の出費が必要だ。冊子体でもiPadでも読みたいなら、本書が好ましそうだ。Student Consult上の追補には、主要な分子の分子構造へのリンクとムービーがいくつかある。
本書のページ数は908ページで、『Molecular Biology of the Cell』第6版(1464ページ)の約3/5だ。説明がわかりやすく、分量が少なくて済む。『Molecular Biology of the Cell』と比べて検討したらいいと思われる。
* ノーベル賞受賞直後に大隅良典・東京工業大栄誉教授がテレビでされた説明と、論理が同じだった
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