ラングマン人体発生学 第11版

ムーア人体発生学』とともによく使われてきた人体発生学のテキスト。改訂されて原著第13版(現行)と同じ版になった(日本語版の改訂が2回スキップされたので、番号がずれている)。

『ムーア』が形態学と臨床にフォーカスし分子生物学を外しているのに対し、『ラングマン』は全方位をカバーしようとしている。『ラングマン』と同様の方針のテキストに、『Human Embryology and Developmental Biology』や『ラーセン人体発生学』がある。

『ラングマン』はこれらのいずれと比較してもコンパクトなのが特徴だ。判型が小さくページ数が少ない。改訂でページ数は増えていない。しかし、文字の密度が高まり、ページマージンが少なくなっていて、字数は増えている。

記述は高密度・要約的だ。話の順序が前後してストーリーを掴みにくいこともある。初学者の学習のリソースとしては難解な部類に入るのではないだろうか。

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『ラングマン』は大きさが他より小さい

例えば、四肢発生の軸の部分は、説明がまぜこぜになっている。分子の説明に振り回され、軸に3つ(頭尾・背腹・遠近)あることも気づきにくそうだ。『ラングマン』でわかりにくいときは『Human Embryology and Developmental Biology』や『ラーセン人体発生学』に当たるとよいようだ。

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四肢発生の軸形成の説明

図は線画に陰影をつけた模式図が多い。もとは点描画だったが、この改訂のときにCGでトレースされた。だいたいは大丈夫だが、形状がどうなっているのか掴みにくいのもある。なかには、描き直されてかえって変になったのもある。伝言ゲームになってしまったのだろう。このような図の改悪は残念だ。Adobe Illustratorでグラデーションを使って描かれたと推測されるが、この技法が生体の複雑なかたちを表現するのに合っていたとは思われない。

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血流(矢印)が壁を突き抜けているようにみえる。室間孔を示す楕円の周りが、変な構造として描かれている。
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同書第9版から同じ図。もとは点描画で、矢印の意味がみてわかる。陰影も豊富なので立体感がある。

素晴らしいのは、原著に付属していたthePointへのアクセス権がこの日本語版にも付いていることだ。他書では、日本語版にだけこういうコンテンツが省略されることが多い中、ありがたい。

thePointでみられるのは、Simbryoという発生のアニメーションだ。Adobe Flashなので、iOSではみられないし、パソコンでもプラグインを入れないといけない。Flashにはセキュリティ上の心配もあるので、HTML5に改変してくれるとよいが。

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thePointへのアクセス権付き
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Simbryoのキャプチャ。Google ChromeでFlashを有効にして閲覧した。

かつては人体発生学の分野の一角を担っていた教科書だったが、取り上げられた話題の数にくらべて分量が少ないために内容の密度が高すぎる、ストーリーが整わず難解な部分がある、トレースで改悪になっている図がある、など、教科書として疑問に感ずる点が目立つ。