解剖学アトラス 原著第10版

イラストによる系統解剖学のアトラス。原著は『プロメテウス解剖学 コア アトラス』とおなじThieme社で、2009年の10版。

本書は2011年刊の日本語版三分冊を一冊にしたもの。分冊版では見開き単位で構成され一方のページに図が、他方のページに説明文がある。本書は単純な合本ではなく、見開きが1ページ単位に再構成されている。そして、三分冊を揃えるより安価だ。

本書の第一の特徴は、図の品質だろう。イラストの多くはStephan Spitzer氏によるもので、ペン画をデジタイズし、彩色してある。写実的ながらスッキリと明快で、立体感や質感があり、彩色による強調がわかりやすい。写実的な図の傍らには模式図も添えられ、構造の理解を助けている。

写実的な線画と模式図
写実的な彩色ペン画と模式図

いずれもイラストレーター自身が撮影した写真を下敷きにしたり、実物を直接スケッチして制作されたようだ。写実的にみえるが存外理想化して描かれている『グレイ解剖学』とは異なる。

肝門部
肝門部の図。写真を使ったアトラスでは曖昧に示されていることも少なくない
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頭蓋底にみえる脳神経。他のアトラスでは、滑車神経、動眼神経などが不正確・曖昧になっていることがある

説明文が豊富なこともこのアトラスの特徴だ。あつめると普通の教科書に匹敵する情報量になると思われる。大小2種類のフォントが、主要な説明と補足的な説明とに使い分けられている。また、臨床関連事項は囲み記事になっている。

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大小2種類のフォントによる説明文と、囲み記事の臨床関連事項

ドイツの教科書なので、英語圏の教科書とは用語や概念、着目点が細部で異なることもある。たとえば、「回旋筋マンシェット Rotatorenmanschette」とあるのは、「回旋筋腱板 rotator cuff」と呼ばれることが日本では多い。また、子宮の支持組織の説明に「基靱帯」のことばがなく、尿管と子宮動脈との位置関係も説明されない。図自体はきちんと描かれているので、このような差違をあまり気にしないことだ。

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子宮の支持組織。基靱帯との用語がない

組織学や発生学も少しふくまれている。その図もイラストだ。発生学の図はCGになっている。

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組織の図も彩色ペン画
発生学の図はCG
発生学の図はCG

原著が2009年なので、それ以降の情報は含まれない。組織学や発生学の部分では注意が必要だ。例えば、ハッサル小体の機能はまだ未知として説明され、T細胞の分類にサプレッサーT細胞が入っている。また、神経解剖学も入っているが、クラシックな内容ではある。

ハッサル小体の機能はまだ未知として記載されている
ハッサル小体の機能はまだ未知として記載されている
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連合線維。コネクトソームを踏まえると書き方は変わるかもしれない。

原著は2013年に改訂され11版になっている。これに基づく英語版7版も1年遅れて発行された。日本語版も続くことを期待する。

原著第11版(2013)
英語版第7版(2014)
分冊日本語版(原著第10版)