人体発生学講義ノート

本書はA4版で240ページ強、厚さ11ミリと薄く、類書と比べて安価なので、気安い。

今日、ヒトを材料にした発生学の研究は、どこででもできるわけではない。研究に使えるヒト胚コレクションが、世界的にも限られているからだ。そのうちの一つが、京都大学にある京都コレクションだ。

本書の著者は、京都コレクションを永く整備・維持されてきた(*)。京都大学医学部には「発生と遺伝」という授業があり、そこでの講義が本書の原型である(現在は退職されている)。そのため、京都コレクションからの画像がふんだんに使われている。他の人体発生学の教科書には真似のむずかしいポイントだ。特に、初期胚の画像はとても貴重だ。(胎内の胚を多数撮影したNilssonの写真集『A Child is Born』にも初期胚が欠けている。)

*『グレイ解剖学』の翻訳にも携わっている。

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二層性胚盤の組織像

京都コレクションでは標本の電子化が進められている。その成果も使われている。

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京都コレクションの胚の写真
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胚を3D化した画像

発生生物学の代表的な成果も取り入れられている。ただし豊富ではない。四肢発生の分子機構は発生生物学の主要なテーマの一つだが、本書では独立した章にはなっていず、1ページのコラムにまとめられている。

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四肢発生の分子機構

臨床上の問題点への言及はあるが、しばしば浅く述べられているだけだ。

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心室中隔欠損はカラムで少し述べられている
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3Dエコーが紹介されている

章末に練習問題が10問ずつある(19章あるので計190問)。CBT対策にはもう少し充実していたらよかったように思われる。

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人体発生学の教科書の多くでは、出所のハッキリしない記述が少なくない。他の成書の記述を継承しているうちに原典が不明になっている。対して、本書の形態学的記述の多くは京都コレクションからのデータに支えられ、実際にその写真が紙面にある。安心して学べるだろう。

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房室中隔の発生の図は難解だが、それがより実際に近く、他書の図は模式化しすぎているのかもしれない。

実際の授業に基づいているので、『ラーセン人体発生学』のように消化不良になるほどの分量ではないのが好ましい。多分同じ理由で、記載に多少むらはあるようだ(たとえば、消化器系は他より模式図が多い)。

臨床の授業やCBT、国試でよくでてくるようなポイントは、本書では系統的にはカバーされていないようだ。もっとも、CBTや国試の対策なら、そのための問題集があるとはいえる。

本学のように、独立した発生学の授業がなく、解剖学の一部に入っているだけの場合、本書の分量はどうだろう。これでも多めに感じる学生は少なくないかもしれないが、学ぶ価値はあるとアドバイスしておこう。