心電図の読み方やさしくやさしく教えます

心電図の読み方やさしくやさしく教えます

心電図の読み方やさしくやさしく教えます

小菅 雅美
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心電図の「やさしい」テキストの新刊。

心電図のテキストは鬼門である。

「解剖学」の本をAmazonで検索すると2,000件以上になる。まあ、学問が広大だから、これはよしとしよう。ヒットした本を「アマゾンおすすめ」順にすると、『グレイ解剖学』、『ネッター解剖学アトラス』などおなじみのテキストが最初にならぶ。「生理学」を検索すると、700件弱。これも、『ガイトン生理学』や『標準生理学』など良書が最初に出てくる。

「心電図」の本を検索すると、1,000件以上。解剖学・生理学に比べたら学問分野としては狭い方だと思うが、件数が多い。タイトルをみると、「わかる」「やさしい」「絶対読める」というのがたくさんある。つまり、どれも、わからないのだな…

どうやら、心電図が難解なだけではないらしい。どこからどこまで学べば修了なのか、はっきりしてない。また、ここから先は専門家も知らないで済ましている、あるいは本当に誰も知らないという界面がわからない。

パターンマッチングにハマると応用が利かない。そういうのはAIのほうが得意なはず。実際、心電図の自動診断のほうが自分よりよかったりする。理論からとなると、たいていの人は基礎学力が不足するので(心筋について超微形態、筋原繊維の収縮機構、膜電位、興奮収縮連関を説明せよ)、さらに基礎からとなりがち。そうでない「理論」はメタファーだったりして、けっきょくよくわからない。臨床的意義となると、病気のことまで知らないとわからない。

心電図は、心臓が悪そうな人を診断して、場合によっては大急ぎに治療にもっていくときに使うツールだ。心電図本を学んだアウトカムが「診断を間違わないのに必要なだけ」ということであれば(だいたいはそうだ)、本書がよさそうだ。

この本の提供している・していないのはこんなこと:

  • 心電図の電気生理の詳細はない
  • 単純なパターンマッチングはない
  • どうして心電図がそんな形になるかのストーリーはあって、覚えがよく応用が利くようになってる
  • すぐ死ぬ心電図、不整脈のいろいろ、冠動脈疾患がわかるようになる
  • 似た心電図の鑑別のみどころがわかる
  • 応用問題がある

心電図だけでなく、いろいろな病態生理や、症候や、心エコーや逸脱酵素など他の検査方法の守備範囲とかもわかってきたら、臨床で大丈夫になってくるんではないだろうか。心電図で躓くかずにスタートするのにいいとおもわれる。

 

気負わずにスタートしようというまえがき

 

全体が6章にわかれていて、読み方の基本から始まり、危険な心電図、不整脈、冠動脈疾患、そのほかの心電図と続き、さいごにケーススタディで練習する。

  • 第1章 心電図の基本
  • 第2章 致死性不整脈の心電図
  • 第3章 パターンで見分ける! 不整脈の心電図
  • 第4章 ロジックで理解する! 冠動脈疾患の心電図
  • 第5章 その他の心電図
  • 第6章 ケーススタディ

第2〜5章は、異常な心電図を示す病態ごとに数ページでまとめられている。代表的な心電図、ポイント、病態生理、病因、症状、治療を概観できる。

 

病態生理から治療まで

 

異常な心電図の形がどういうときにでるのか、随時説明があって、読み取るポイントがわかってくる。ありがちな疑問、たとえば心電図がヘロヘロになっていても冠動脈形成術は間に合うのか、などに応えている。

 

異常パターンのしくみ

 

再灌流しても間に合うのか

 

実は、この本で印象的だったのは、下壁梗塞の心電図には、症例ごとに違いが大きい、というはなし。

解剖学実習では冠動脈のスケッチをしていて、冠動脈に右優位と左優位があり、ディテールは千差万別というのを、履修生は学んでいる。同じ右冠動脈閉塞でも梗塞範囲は異なり、心電図のパターンも違うはず。

検索すると、関連する論文が見つかる。そのひとつ:

  • Kosuge, M. et al. Posterior wall involvement attenuates predictive value of ST-segment elevation in lead V4R for right ventricular involvement in inferior acute myocardial infarction. J Cardiol 54, 386–93 (2009). doi: 10.1016/j.jjcc.2009.06.006 

 

下壁梗塞はいろいろ

 

もし、心電図の電気生理が必要であれば、他の生理学書との比較では、『ガイトン生理学』がわかりやすいと思われる。いまや化石になったベクトル心電図がでてくるが、実際ベクトルだからそれで説明することになる。

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問題演習をやるなら、心電図検定用のがある。問題文に臨床症状が少ししか書かれていないのが、リアルワールドから離れているように思われるが。

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Amazonで心電図本を検索すると、自主制作のような高額な書籍もみつかる。心電図検定向けらしい。投資セミナーのような構造だろうか。ちゃんとした出版社の心電図本は概ね5,000円以内。