新解剖学(Qシリーズ)

解剖学のメインストリームの教科書はどれも大部だ。概略をとらえるのは難しい。この『新解剖学』は、小さい。『グレイ解剖学』のボリュームを1とすると、0.16しかない。心理的な負担が少ないだろう。電子版が附属しているので、iPadなどでも勉強できる。この第7版では、解剖学用語に附記されていたラテン語が英語に変更された。医療現場ではラテン語は使われないので、妥当だ。

 

 

一つ一つの話題が箇条書きになっていて、0.5〜2ページにまとめられている。試験で問われることの多いポイントには、あらかじめマーカーが引かれていて、勉強の手間を省いている。重要なポイントは概ねカバーされていそうだ。ただし、高密度な分、ストーリーがないので、マーカーが引かれている訳までは理解しにくい。自分でノートを作る代わりにしたり、授業の復習で使うのが良さそうだ。

話題ごとに1つ〜複数のイラストがついていて、理解を助けている。イラストはIllustratorで描かれた模式的なのが多い。余計なものが省かれているので、もとの構造が簡単なものであれば、図をみて理解するのは容易い。一方で、ディテールがないので形状を読み取るには心許なく、形を誤解しそうなものも皆無ではない。それでも、一度実物をみていれば、概略をとらえなおすのには役立つ。

全体が系統解剖学の形式で構成されている。看護、PT、OTなどのような、解剖実習のない授業では、系統解剖学のほうがなじみがよい。また、解剖実習の前に系統解剖学の講義があるなら、そのまとめにも参考になるだろう。純粋な系統解剖学ではなく、局所的な位置関係にも言及されているので、医療現場で実用になる知識も得られそうだ。それでも、解剖実習といっしょに読むにはページをあちこち繰るのが面倒になる。

 

呼吸器系:反回神経の左右差や、気管支の分岐と誤嚥との関係が記載される

 

消化器系:肝臓の周りの支持組織。複雑な立体になると、この模式図の描写ではとらえにくい。円盤のような腱中心や紐のような三角間膜は誤解につながりそう

 

脈管系:模式図ではあるが、胸椎や肋間動脈の数が足らなそう

 

神経系:本書には神経解剖学も含まれる

 

巻末には、骨の名称の表と骨格筋の表があり、PT、OTの読者に役立ちそうだ。動脈全体の分岐図も、路線図のようで興味深い。

 

動脈のまとめ

 

本書は小さな本で、要点がうまくまとめられているので、もう間に合わないという試験直前で救いを求めるには使えるかも知れない。まあ、最初から『グレイ』を読め、少なくとも『イラ解』を当たれる程度の余裕はとれ、むしろ先に過去問をみておけ、という話ではあるけれども。