Whole Earth Epilog, October 1974
Whole Earth Catalogの1974年の休刊の最終号である。50年前の本で、古書で状態の良いのは稀有だが、ネット上で全巻を読むことができる。
Whole Earth Catalogは、1968年、米国の作家・編集者のスチュアート・ブランドによって創刊された。米国の思想家バックミンスター・フラーの「最小のもので最大を成す doing more with less」という思想にインスパイアされたという。年2回の定期刊行物だった。
サブタイトルの「access to tools」は、「人はどこでもツールを使える」「自分自身の環境を設計できる」という理念を表している。Whole Earth Catalogは当時のヒッピー・ムーブメントに大きな影響を与え、よく読まれた。ヒッピーたちの「イケてる」商品のカタログで、販売元から実際に購入することもできた。
しかしやがてヒッピー・ムーブメントは下火になり、1974年10月をもって定期刊行物としては休刊になった。この時のタイトルは、『Whole Earth Epilog』になっている。欠けた地球の写真も、創刊号のNASAの「青い地球」の写真を踏まえている。その後も不定期に刊行は続いて、1998年の30周年記念号が最後になった。
内容が彼らの思想と暮らしの全般をカバーしていたことが、この最終号の目次を見てもわかる。ノマド、リモートワーク、移住といった現代日本のムーブメントにも通じるかもしれない。



この号の巻頭には、人類学者グレゴリー・ベイトソンの『精神の生態学へ』(1972年)が紹介されている。人間の思考・社会・自然を「相互に結びついたシステム」として理解する必要があると提唱したもの。日本語訳が岩波文庫の3巻になっていて、Kindleでも読める。

そして、ヒトへの見方を変革する書として、解剖学書もある。しかも、日本の著者による、日本の出版社の本だ。すなわち横地千仭『Photographic Anatomy of the Human Body』である。
エルぜビア社は自国のオランダ語ではなく英語で出版している—医学書院の創始者は、これに触発されて英文書の出版事業を始めた。その初期の出版がこれである。1969年に和書を英訳して刊行した(第3版は医学書院でまだ入手可能のようだ)。のちに1983年の『解剖学カラーアトラス / Photographic Atlas of Anatomy』に継承され、現在も世界中の医学生たちが使っている。

ロゴや見出しに使われているフォントは、Windsorという。これを使うだけでヒッピーな印象になる。ヒッピームーブメントは日本にも直接・間接に多大な影響を与えた。いまの群馬界隈でいえば、チャイハネとか、さくげつとか、野路(のじ)とかそうなのかも。

パーソナルコンピューターもデスクトップパブリッシングもなかった時代なので、紙焼きをハサミと糊でレイアウトして製作された。その様子がIndexのページに嵌め込まれている。
- 写真を印画紙で出力
- 写植(写植機で組んだ文字)を紙に焼き付ける
- それを ハサミで切る
- レイアウト台紙に ノリで貼る(ペーストアップ)
- 版下をそのまま印刷所へ

巻末には、制作に関わった人達の集合写真がある。そしてなんと、収支報告もされている。後日、売上金2万ドルをどう使うか、ユニークなアイディアを読者に募った。それをゲットしたのが、燃やしてしまおうといったフレッド・ムーアだった。
ムーアはしかし燃やすことはせず、ゴードン・フレンチとともに「Homebrew Computer Club」というコンピュータの愛好家の集まりを作った。Whole Earth Catalogの理念をコンピュータサイエンスで継承したものでもあった。そこに参加していた2人の若者はのちに、コンピュータの会社を設立することになった。スティーブ・ウォズニアックとスティーブ・ジョブズである。(なお共同設立者にはもう一人、アタリ社のロナルド・ウエインがいたが、設立12日後に職を辞した。)


「Whole Earth Catalog」があらためて広く知られるようになったきっかけは、スティーブ・ジョブズによるスタンフォード大学の卒業祝辞である。その締めにこの「最終号」に言及し、裏表紙にあったフラーによるメッセージを「贈る言葉」として述べた。
cf: 映像の世紀 バタフライエフェクト「世界を変えた“愚か者”フラーとジョブズ」
そのすぐ後に古書で見つけたのがこの冊子である。まだ今ほどのプレミアはついていなかった。

この写真の場所はRedditユーザにより特定されている。
